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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 内部留保と経営(2) (企業財務管理、国際金融/平松拓)

内部留保と経営(2)

平松拓 企業財務管理、国際金融

19/11/28

前回は誤解を受けがちな内部留保について、それが大きいからといって、必ずしも現金を過剰に抱えているとは限らず、設備投資や賃上げに消極的とも限らない、ということをお話しました。今回はもう少し違った側面から、この内部留保の問題を考えてみたいと思います。

まず、日本企業全体で内部留保が積み上がっているということは事実です。法人企業統計で自己資本比率(資本金やこの内部留保を主体とする「自己資本」の総資産に対する比率)を見ると、近年上昇が顕著で、大企業ばかりでなく中堅・中小企業も平均40%台に達しています。これは欧米企業と比較して遜色ない水準ですが、上昇の主因は内部留保の増加です。1970年代に日本企業の自己資本比率の平均が10%台であった事からすると、まさに隔世の感があります。

嘗てはメインバンクの厚い庇護の下で、規模の拡大に邁進していた日本企業では、利益が上がっても、配当後の留保利益の何倍も借入を増やして積極的な投資を行ったので、自己資本比率は低い水準に留まっていました。しかし、80年代に経済が停滞期を迎えると、企業の投資に対する積極姿勢も変化して、留保利益が追加の借入に繋がるのではなくて、逆に借入の返済に繋がるようになりました。その結果、(負債の比率が低下して)自己資本比率が上昇するようになった訳です。

これに対し英米では、高成長を続けて大きな利益を計上する企業が成熟期を迎えると、それまで行っていなかった配当支払を始めたり、増配や自社株式購入で株主への還元(内部留保は減る)を増やす傾向があります。そしてその株主還元に必要な資金や、新たな投資に必要な資金を、留保利益ではなくて新たな借入で賄おうとする傾向があります。この結果、内部留保の増加は抑制され、自己資本比率も上昇が抑えられています。

それでは、成熟期に入っても内部留保を積み増して自己資本比率を高める日本企業と、多額の株主還元や、投資を借入れで賄って自己資本比率の上昇を抑える英米企業との、こうしたパフォーマンスの違いはどこから来ているのでしょうか。この疑問を解く鍵は、内部留保を含む自己資本のコストと、借入など他人資本のコストについての、経営者の認識の違いにあります。

借入の場合、決まった期日に元本返済や利息支払いをせねばならず、もし、それができなければ倒産します。しかし、このことを逆に言えば、予め約定した元本の返済と利子の支払さえ行っていれば、経営者は銀行からそれ以上の責任を問われることはないとも言えます。

これに対し(内部留保を含む)自己資本については、「株主資本」の名の通り本来株主に帰属するものであっても通常返済する義務はないし、配当や自社株式購入について予め契約している訳でもありません。しかし、だからと言って、株主をないがしろにして相応の還元を行なわずに済むでしょうか。

株主はその企業の業績や成長に関わる大きなリスクを負っており、自ら期待するリターンがもたらされない限り満足しないはずです。株主が満足せず、その影響力が正常に行使できる状態にあれば、経営者は株主総会や取締役会で追及され、退任を迫られる可能性があります。つまり、株主によるガバナンスが効いていれば、内部留保を含む株主資本には株主が期待するリターンというコストがかかることを意味します。そして、株価変動や企業倒産等という大きなリスクに晒されている株主が期待するリターンは、通常、借入金の利率を大きく上回るはずです。

即ち、内部留保が積み上がれば、経営者はそれだけ多くのリターンを株主のために稼ぎ出さねばならないことになります。そのために、ハイ・リスク、ハイ・リターンの案件を手掛ければ経営は難しさを増しますが、それでも十分なリターンが稼ぎ出せるとは限りません。そうなると経営者にとっては、内部留保を必要以上に増やさない、そのために積極的に株主に還元を行うことが一つの選択肢となってきます。日本では、株価吊り上げ策として否定的に報道されがちな英米企業のこうした対応は、実は、株主に属する資本が高い投資効率で活用されるよう、コーポレートガバナンスのメカニズムが機能していることを意味しているのです。

これに対して、日本企業で内部留保の増加が顕著となっている背景には、株主の期待するリターンに応えるという意識が経営者に希薄ということがありそうです。このような経営者は株主資本のコストについて、預金利息より多少高い程度の配当金支払と考えがちです。そう考えると、倒産確率が低くなるという内部留保積み増しのベネフィットと比較して、極めて低コストの資金ということになります。結果、本来はコストの高いはずの内部留保が、それに見合う高い収益率の投資案件に用いられずに、効率の低い現預金のまま企業に留め置かれるということにもなってしまう訳です。

こう考えると、最近の日本企業の内部留保の積み上がりは、コーポレートガバナンスが十分に機能しない中で、株主資本が効率的に活用されずにいることの証左として見られてしまっても仕方ない一面を持っているということが言えます。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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