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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > モチベーションの構造① マズローの欲求階層説 (コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ/松永正樹)

モチベーションの構造① マズローの欲求階層説

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

19/09/17

こんにちは、松永正樹と申します。コミュニケーション学という学問が専門で、人がどのような場面でどのようなコミュニケーションをするのか、それが組織やチームにどう影響するか――例えば、上司の振る舞いによって、従業員の行動やチームの生産性がどう変わるか――といったテーマについて研究を進めています。九州大学には2016年に着任して、最初の3年間はロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センターという所で、特に多様なバックグラウンドの受講生が集まる授業を担当していました。例えば、12~13カ国出身の学生達をアメリカに派遣してゼロから起業のアイデアを着想し、現地の起業家やベンチャーキャピタリストにデモをするブートキャンプというプログラムなどです。修了生の中には将来海外の大学院への進学を強く希望するようになったり、すでに海外に拠点を移して起業したりした人もいます。QBSでは「組織行動」と「リーダーシップ論」という授業を担当しますので、こちらの番組ではそれらのテーマに則したお話が出来ればと思います。

「組織行動」とは文字通り、会社やチームといった組織の中で人がどんな振る舞いをするのかについて研究する学問です。「リーダーシップ論」はそれと表裏一体で、望ましい目標を達成するためにメンバーの行動を促すプロセスを研究します。いずれも人というのは、どのような時にどのような振る舞いをするのか、その背景にはどのようなメカニズムが働いているのかについて分析するものであり、私の専門であるコミュニケーション学と非常に関連が深い領域です。その中で、本日はコミュニケーションあるいは行動そのものの源泉となる「モチベーション」についてお話をしたいと思います。

モチベーションというのは日常会話でもよく使われますが、学術的には「ある目標の達成に向けて発揮される心理的エネルギー」とされています。エネルギーなので使えば消耗しますし、注ぎ足したり呼び覚ましたりも出来ます。生まれつきあるか無いかで分けられる才能のようなものではありません。

このモチベーションによって、人の仕事への取り組み方は「方向性」、「強度」、「持続性」という3つの面で変化します。方向性というのはどのような仕事に進んで取り組むかということで、モチベーションの種類によってその人の仕事の方向性が変わってきます。強度と持続性というのは仕事にどれくらいの努力を費やすか、それがどれだけの期間継続するかということです。短い期間で爆発的に発揮されるモチベーションもあれば、もっと長い期間に亘って安定的にずっと持続する場合もあります。先程、モチベーションには種類があるとお話しましたが、実際モチベーションというのは多種多様で、多くの学者や経営者がモチベーションの構造を明らかにしようと研究を重ねてきました。有名なところでは、アメリカの心理学者マズローが提唱した欲求階層説があります。

マズローの欲求階層説によると、人はまず喉が渇いたとか、お腹が空いたといった生理的欲求、これが1番ベースにあって、これが脅かされると他の欲求は後回しになって、何よりも生理的欲求に突き動かされます。逆に、生理的欲求が満たされたら、今度は安全な場所で暮らしたいといった安全欲求が芽生えます。次に1人では嫌だ、仲間と過ごしたいという親和欲求が芽生え、仲間が出来たらその仲間や周りから認められたいという承認欲求あるいは自尊欲求が生じ、最後に他者との比較を超越して、自己の可能性を追求したいという自己実現の欲求に至る、これが一番高いレベルの欲求であるという説です。これを応用して、まず従業員の心理的安全性を確保することが大事だとか、単に給与を上げるだけではなくて自己実現の機会を示さなければならない、といった主張も最近よく見られますので、お聞きになったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。マズローの欲求階層説は直観的に分かり易く、マネジメントにも応用しやすく思われるので、大変広く普及しています。しかし、実は人のモチベーションが常にきっちり順番に、マズローが言う低いレベルから高いレベルに並んでいるという主張を裏付けるデータはありません。

もう少し正確に言うと、マズローが挙げた5つの欲求自体は確かに多くの人が持ち合わせています。けれども、それが段階的に作用するという主張に関してはエビデンスがありません。あくまで、参考にするのは良いけれど鵜呑みにするものではないということです。このことは、例えば、アニュアル・レビュー・オブ・サイコロジーという学術誌で発表されて、これまでに1,600回近くも引用されているレイサムとピンダーの論文などではっきり述べられています。実際にはむしろ、何がモチベーションとなって人の行動を突き動かすのかは文化や状況によって様々だということが分かっています。例えば、ある文化では明らかに経済的リソースが不足しているにも関わらず、宗教的な装飾のメンテナンスを家族の食事より優先していたりします。これは、マズローの説からすると下の方のレベル、つまり生理的欲求がまだ十分満たされていないにも関わらず、飾りを優先するということで少し説と合わないということになるわけです。あるいは自分の命を危険に晒してでも、戦地に赴く医師団やジャーナリスト、登山家などもそうです。危険な登山にあえて進んでいったり、命を危険に晒してまで戦地で自ら定めたミッションを追求したりする、そういったことをするのは何なんだといったところも、マズローの説からすると一部不可解な存在かもしれません。

では何がモチベーションになって行動をするかは、結局人によるということなのでしょうか。もちろん、そうではありません。モチベーションには文化や状況を超えて共通する構造があり、組織行動論を含む様々な学問を通して理論化されています。次回からは、それらの理論をいくつか紹介したいと思います。

今日のまとめ:
モチベーションとは、ある目標の達成に向けて発揮される心理的エネルギーの事です。人の仕事への取り組み方は、方向性・強度・持続性という3つの面でモチベーションの影響を受けます。人のモチベーションは階層構造になっているというマズローの欲求階層説は有名ですが、実はその主張をそのままの形で支持するエビデンスというのはありません。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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