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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 業界標準と競争戦略(1) (企業戦略、生産管理/目代武史)

業界標準と競争戦略(1)

目代武史 企業戦略、生産管理

19/09/24

今日は業界標準に関するお話をします。今、ご家庭でテレビ番組を録画する場合は、DVDレコーダーとか、内蔵されているハードディスクドライブで録画すると思います。一昔前はというと、ビデオテープでした。家庭用VTRには昔、VHS方式に加えてベータマックス方式というのもありました。

私が子どもの頃は、レンタルビデオ店にVHS方式とベータマックス方式の両方が置かれていましたが、いつのまにかVHS方式に統一されていました。実はこれは「業界標準」というものをめぐる競争の結果だったのです。VHSとベータマックスをめぐる競争は、業界標準をとることがいかに重要かということを物語る古典的事例になっていますので、今日はこの話をしてみたいと思います。

初めての家庭用ビデオテープレコーダーが発売されたのは1975年のことでした。ソニーが開発したSL-6300というもので、価格は22万9800円となかなかの値段でした。これに触発されて各社が家庭用VTRをこぞって開発しました。二番手になったのは日本ビクターで、ほぼ1年後の1976年に発売しています。当時家庭用VTRには2つの規格が存在しました。ソニーのベータマックス方式と日本ビクターのVHS方式です。両社の特徴としては、ソニーのベータマックスの方が画質は良いと言われており、かつカセットテープも小さくて文庫本ぐらいの大きさでした。一方で日本ビクターのVHS方式は、画質は十分なレベルにありましたが、カセットテープはベータマックスに比べればかなり大きくて、ハードカバーの本のやや幅を狭くしたぐらいの大きさでしたが、録画時間は120分あり、ベータマックスより長かったのです。要するに製品としてはどちらも一長一短ありました。この家庭用VTRは1980年代に急速に家庭に普及していき、80年代末には世帯普及率は大体7割ぐらいまでいきました。当初はソニーが先行して市場を席巻していたのですが、80年代に入ってくるとソニーの市場シェアが段々と低下していきました。日本ビクターや松下電器(現在のパナソニック)それから日立やシャープといったVHS陣営の市場シェアがどんどん伸びていきました。90年代に入るとVHS方式が大勢を占めるようになって、家庭用VTRといえばVHS方式、そんな常識が成立するようになりました。

当初はベータマックス方式を出していたのはソニーだけではなく、他の企業も出していたのですが、段々と他の企業がVHS方式にスイッチしていきました。例えば当時はレンタルビデオ店が普及してきましたが、そこに置かれているコンテンツのタイトルが段々とベータマックスからVHSに切り替わるということがおこってきて、そういったものに対応するためにVHS陣営に鞍替えしていくということになったわけです。このように競争の結果、特定の標準が支配的な地位を占めるようになることがあります。こうやって出来あがった標準のことを「デファクト・スタンダード」と言います。デファクトというのは「事実上の」という意味があるのですが、市場であまりに普及した結果、事実上その業界の標準となったようなもの、それがデファクト・スタンダードというわけです。

この家庭用VTRにおける戦いとその結果は、企業戦略研究において大きな衝撃を与えました。その理由はいくつかあり、その1つが、一旦競争のバランスが一方に傾く、つまりVHS方式の方に傾くと雪だるま式に特定の技術標準の優位性が高まったということがあります。二つ目はいったん競争のバランスが傾いた後に再逆転が起こらなかったということです。更に必ずしも技術的に優れた標準がデファクト・スタンダードになるとは限らないという点も大きな衝撃を与えた点の1つです。どうしてこのようなデファクト・スタンダードのようなものが生まれるのか、これには2つ条件があると言われています。

第1の条件はいわゆるソフトやコンテンツの蓄積が重要な場合です。例えばテレビ番組の録画テープが多いとか、レンタルビデオ店に置いてあるタイトルの本数ということが問題になるわけです。2番目の条件は、他のユーザーや技術のやりとりが多いか少ないかということです。例えば録画した番組をカセットテープで友人と貸し借りをするとなると、同じ方式の方が便利です。そういった意味で画質自体はベータマックスの方が良いしテープの大きさもベータマックスの方が小さいのですが、レンタルビデオ店で借りられる本数が多いVHSの方がユーザーにとっては利便性が高いということでVHS方式の方に段々と技術の趨勢が傾いていったということです。こうした条件を満たすものとしては、DVDプレイヤーとかパソコンなど色々なものが考えられます。

今日のまとめ:
業界標準と企業戦略との関係を考える上で重要な概念である「デファクト・スタンダード」について話をしました。デファクト・スタンダードというのはその業界における企業間の競争の結果、支配的な地位を占めるようになり事実上の業界標準となった製品や技術方式のことです。今回は古典的事例として家庭用VTRにおけるベータマックス方式とVHS方式の事例を紹介しました。この事例では市場で優勢となったVHS方式がいわば勝者総取りといえる勝利をおさめたことから企業戦略研究に大いに衝撃を与えました。その後もデファクト・スタンダードをめぐる競争は様々な領域で展開されていきました。一方でデファクトをめぐる真正面からの競争を避けるような動きも出てきました。その点については次回以降お話しいたします。

分野: 企業戦略 生産管理 |スピーカー: 目代武史

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