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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ブックレビュー(10) 宮本武蔵(佐藤正英校注・訳)『五輪書』ちくま学芸文庫 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ブックレビュー(10) 宮本武蔵(佐藤正英校注・訳)『五輪書』ちくま学芸文庫

永田晃也 技術経営、科学技術政策

19/08/20

宮本武蔵(佐藤正英校注・訳)『五輪書』ちくま学芸文庫
今回のまとめ: 本書には限界的な状況の下で人が生き抜いていくための態度が指南されています。

今回は、宮本武蔵が書き残したものと伝えられる『五輪書』(ごりんのしょ)を取り上げます。宮本武蔵という剣豪は、吉川英次氏の長編小説をはじめ、非常に多くの文芸作品やエンターテイメントで取り上げられてきましたから、大抵の方がご存知でしょう。
ちくま学芸文庫版『五輪書』の解説に沿って、その略歴を振り返っておくと、武蔵は1582年に播磨国の田原家に生まれ、この生家が仕えていた小寺氏が豊臣秀吉に滅ぼされたことにより没落した後、宮本無二斎(むにさい)という人の養子になったとされています。1600年、19歳のときには関が原の合戦で無二斎とともに、東軍側についた豊前国中津城主の黒田義高の下で戦ったと推定されています。1615年、34歳のときには、大阪夏の陣で徳川方の一員として参戦しています。その後、養子・伊織の仕えていた明石城主の小笠原氏が豊前国小倉城に移ったとき、武蔵も同行したと推定されています。1640年には、島原の乱に出陣したことで知己を得た肥後国熊本城主細川忠利に客分として迎えられました。その3年後の1643年、武蔵は岩戸山雲厳寺の洞窟にこもって『五輪書』を書き始めるのですが、未完のまま1645年に64歳で病没したとされています。こうして見ると、九州の地に深い縁のある人だったことが分かります。
武蔵は『五輪書』の冒頭で、自分は若い頃から兵法の道に心がけ、13歳で初めて勝負に勝って以来、28、9歳までの間に諸国でさまざまな兵法者に出会って60回以上勝負をしたが、一度も勝ちを得ないことはなかったと述べています。『五輪書』は、そのような剣豪であった武蔵が、自らの起こした二天一流という流派のあり方について説いた兵法書です。
そこで説かれていることは、極めて実戦的、合理的に勝ちを得るための兵法なのですが、その背景にある思想は武芸の道にとどまらず、命のやり取りのような限界的な状況の下で人が生きていくための修養のあり方を指南するものとして理解されてきましたし、そのため経営トップのような社会的リーダーたちによって、しばしば座右の書として挙げられてきました。
私はだいぶ前に、従来から流布していた細川家本に校注のみが付いた版で『五輪書』を読んだときには、どこに深い思想があるのか理解できませんでした。The Book of Five Ringsという英訳本が空港の売店で飛ぶように売れているという話を聞いたときには不思議に思ったものです。しかし、2003年に福岡藩家老吉田家旧蔵本というものが新たに発見され、これに校注と現代語訳が付いたちくま学芸文庫版で再読したときには、その面白さが些か理解できたように思いました。因みに、この吉田家本は九州大学に所蔵されているそうです。

『五輪書』は、地・水・火・風・空の5巻で構成されており、「地の巻」には二転一流の兵法のあらまし、「水の巻」には剣術の基本、「火の巻」には戦いに勝つためのことわり、「風の巻」には他の流派に対する批判、「空の巻」には兵法の本来の道を体現するための姿勢が説かれています。
武蔵は『五輪書』の冒頭で、この書を書き付けるに当たっては、仏法や儒学の言葉を借りず、軍記や軍法書の故事も借用しないと宣言しています。つまり、自分が経験を通じて体得した武芸とその思想を、あくまで自分の言葉で語ろうとしたわけです。その意味では、この書は他に例をみない特異な文学として読むこともできます。しかし、うまく語りつくせない故のもどかしさからか、非常にしばしば各節を「よくよく吟味すべし」とか「よくよく工夫すべし」といった、突き放すような表現で締め括っています。

私の印象に残った教えを1つだけご紹介しておきます。「水の巻」に「有構無構(うこうむこう)の教えのこと」という節があり、そこで武蔵は五法の構えという太刀の置き方はあるけれども、それは敵との関わり方により、場所により、状況に即応して勝つために変わっていくものだから、構えあって構えなしなのだと説いています。また、「風の巻」では太刀の構えを重んずる流派について、構えるということは敵の先手を待つありようだと批判し、「よくよく工夫あるべし」と述べています。この思想は、経営戦略を立案したり、構築したりするものではなく、実践において生成されるものとして捉える最近の戦略論の考え方に通じると思います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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