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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 合成の誤謬 (経済予測、経済事情、日本経済、経済学/塚崎公義)

合成の誤謬

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

19/06/20

今日は、皆が正しい事をすると、皆が酷い目に遭う、という話です。合成の誤謬(ごびゅう)という難しい言葉で呼ばれていますが、今日はそれを易しい言葉で説明しよう、というわけです。

劇場で火災が発生したとき、それぞれの観客にとって正しい行動は、非常口に向かって走ることです。もしも、ほかの観客が非常口に向かって走らないのだとしたら、走った人だけが助かるという可能性が高いでしょうから。しかし実際には、ほかの観客も出口に向かって走るでしょうから、出口で押し合いが起こって誰も逃げられなくなってしまうかも知れません。劇場の管理人は、その事を知っていますから、「皆さん落ち着いて、走らずに列を作って歩いて下さい」などとアナウンスをするでしょうが、アナウンスに従う人は少ないかも知れません。なんといっても自分の命の事だけを考えれば、走ることが正しいのですから。

株価が暴落するという噂が流れたとき、個々の投資家にとっては株の売り注文を出すのが正しい行動です。しかし、すべての投資家が売り注文を出すと、買い注文が出てこないので、取引が成立しません。株価が下がって行きますが、誰も株を売ることが出来ずに全員が損をしてしまいます。そんな時に政府が「投資家の皆さん、冷静になりましょう。株価は下がりすぎていますから、総理大臣である私は株の買い注文を出しましたよ」とアナウンスをしても、売り注文は減らないかも知れません。どうしようもない時には「明日、日銀が大量の買い注文を出す予定です」といったアナウンスをするのかも知れませんが、それは余程の時でしょう。

銀行の取り付け騒ぎも、似たような現象です。「あの銀行が倒産しそうだ」という噂が流れた時に、一人一人の預金者にとって正しい行動は、預金を引き出す事ですが、すべての預金者が預金を引き出すと、銀行の金庫が空になって銀行が倒産してしまい、預金者のほとんどが損をするかも知れません。これについては、過去の取り付け騒ぎの例などを参考に、対策がいろいろと練られています。たとえば日銀が現金輸送車で札束を届けに来るわけです。大量の札束を見た預金者は、安心して預金を引き出さずに帰るかも知れませんから。それから、預金保険制度というものがあります。これは、細かいことはともかくとして、残高1000万円までの銀行預金は、銀行が倒産しても政府がちゃんと払ってくれるので、銀行が倒産するという噂を聞いても庶民は銀行の預金を引き出さなくて良いですよ、というものだと考えて下さい。預金者の多くは庶民ですから、皆がこの制度を知っていれば、銀行が破綻するという噂が流れても取り付け騒ぎは発生しない、と政府は期待しているわけです。ただ、問題は政府の宣伝が足りないので、この制度を知っている人が少ないのです。せっかく良い制度を作ったのですから、もっとしっかり宣伝してくれれば良いと思います。

劇場火災や銀行の取り付け騒ぎのように、過去に何度も発生した事があるものについては、合成の誤謬が発生するとどうなるかを想像する事が簡単ですから、対策が立てやすいのですが、そうでない場合には大変です。何も起きていない時に、合成の誤謬が発生したらどうなるかを考える事は大変難しいからです。実際に合成の誤謬が発生してから「こんな筈では無かった」と反省するケースが多いのです。過去の失敗の例に学べない場合には、よほど想像力をたくましくしないと、合成の誤謬を防ぐのは難しいでしょう。

じつは、景気が悪くなる原因の一つも合成の誤謬だと私は考えています。一人一人にとっては、豊かになるために大切なことは真剣に働いて倹約することですね。しかし、全員が真剣に働いて倹約すると、全員が貧しくなる場合もあるのです。全員が真剣に働くと、大量の物が作られます。全員が倹約すると、少ししか物が売れません。すると、大量に物が売れ残ります。会社としては、作った物が1割売れ残ったとすれば、生産量を一割減らして社員の1割をクビにするかも知れません。クビになった社員は、失業するので貧しくなります。じつは、失業しなかった社員も貧しくなるのです。「給料を下げるぞ。嫌ならクビだ。君をクビにしても、我が社が雇える失業者が大勢いるのだから」と言われると、労働者としては「給料を下げても良いからクビにしないで下さい」と言わざるを得ません。

バブル崩壊後の長期低迷期に日本経済がうまく行かなかった理由の一つは、日本人が真面目に働いて倹約したからなのではないか、と私は考えているわけです。

(今日のまとめ)
一人一人が正しい事をすると、全員が酷い目に遭う場合があります。劇場火災の時に皆が出口に向かって走るような場合です。合成の誤謬と呼ばれる現象です。

分野: 景気予測 |スピーカー: 塚崎公義

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