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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > "ブックレビュー(7) 施光恒(せ てるひさ)『英語化は愚民化―日本の国力が地に落ちる』集英社新書 " (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

"ブックレビュー(7) 施光恒(せ てるひさ)『英語化は愚民化―日本の国力が地に落ちる』集英社新書 "

永田晃也 技術経営、科学技術政策

19/05/01

 施光恒(せ てるひさ)『英語化は愚民化―日本の国力が地に落ちる』集英社新書
今回のまとめ: グローバル化に伴いビジネスの世界でも進展している英語化について、本書は警鐘を鳴らしています。

 今回は集英社新書として刊行されている『英語化は愚民化--日本の国力が地に落ちる』という本をご紹介します。著者である施光恒先生という方は、九州大学比較社会文化研究院の准教授で、政治理論や政治哲学を専門とされている政治学者です。刊行されたのは2015年ですが、ここで主張されていることは益々重い意味を持つようになっていると思われるので、是非取り上げておきたいのです。
 ご存知にように、もう暫く前から様々な政策論議の場で、日本の国際競争力を高めるということを目的として、英語化を進めようという議論が展開され、その方向への動きが活発化しています。2012年頃からは、社内の公用語を英語にする企業が現れていますし、2014年には内閣官房管轄下のクールジャパンムーブメント推進会議が「公用語を英語とする英語特区をつくる」という政策提言を行っています。
 大学教育をめぐる政策でも、授業の英語化を進めるという形で同様の動きが現れています。既に全ての授業を英語で行う教育プログラムを持っている大学は少なくありません。日本では若年人口が減少しているため、大学が学生の入学定員を満たす上で留学生の受入に依存せざるを得ない事態が生じており、その受入を拡張する目的で授業の英語化が進められている側面があります。しかし、そうした便宜的な理由ではなく、英語化こそ大学の国際競争力を高める効果を持つと本気で信じ、それを進めようする人たちが世の中にはいるようです。
 この本は、こうした英語化政策がもたらす結果に対する強い危機感を背景に書かれており、それは却って日本の良さや強みを破壊してしまうだろうということを丁寧に論証しています。
この本では、まずグローバル化・英語化が「時代の流れ」であり、逆らえない必然だと捉える見方を歴史的な観点から検討しています。そして、宗教改革などの歴史的事実を踏まえて、かつて支配的な言語であったラテン語で記されていた知識を現地語に翻訳し、土着化することこそが、多様な文化の発展を可能にしたのだと指摘しています。
その上で、日本の近代化は、この翻訳と土着化によって成功したものであると説いています。そこでは、1870年代つまり明治初期に既に存在していた「英語公用語化論」をめぐる顛末が紹介されています。この議論の急先鋒は、後に初代文部大臣を務めた森有礼だったということですが、その意見に対しては様々な反対意見があったそうです。興味深いのは、アメリカ言語学会の初代会長であったウィリアム・ホイットニーが森に送った手紙の中で、「母語を棄て、外国語による近代化を図った国で成功したものなど、ほとんどない」とたしなめていたということです。また、当時先進的な洋学者であった福沢諭吉は『学問のすゝめ』の中で「日本の言語は不便利にして文章も演説も出来ぬゆえ、英語を使い英文を用いるなぞと、取るにも足らぬ馬鹿を言う者あり。按ずるにこの書生は日本に生まれて未だ十分に日本語を用いたことなき男ならん」と、森の意見を一蹴しています。結局、森の意見は大勢の支持を得ることができず、代わりに各国語からの懸命な翻訳と、新しい概念を日本語に中に位置づけていく作業が行われることになりました。そうした努力のお陰で、日本人は自らの言語で高度の学問を教え、学び、中間層に広く普及させることができるようになり、近代化を成功させることができたというわけです。
しかし、近代化を成し遂げた後では英語化の影響は異なるのではないかという意見があるかも知れません。この点について施先生は、なお英語化が非常に多くの文化的価値を破壊する可能性があることを丁寧に論じています。ここで全てを紹介する余裕はありませんが、この議論の前提になっているのは言語というものが単なる「コミュニケーションのツール」ではないということ、我々の知性が言語を作ったのではなく、言語が我々の知性、感性、世界観を作ってきたのだという捉え方です。従って、英語化が進めば、多くの日本人は創造的にものごとを思考することもできなくなる可能性があるわけです。この点については、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏が、中国と韓国を訪問した際、なぜアジアで日本だけが次々と受賞者を輩出しているのかという問いを受け、母国語で専門書を読むことができる日本の優位性をしみじみ感じたという印象的なエピソードが引用されています。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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