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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 日本のビジネス倫理の歴史~東洋思想から考える経営学2~ (企業倫理、リスクマネジメント/平野琢)

日本のビジネス倫理の歴史~東洋思想から考える経営学2~

平野琢 企業倫理、リスクマネジメント

19/04/10

今日は日本のビジネス倫理の歴史を、伝統的な商いの道徳から紐解いていきたいと思います。
「企業倫理」あるいは「ビジネス倫理」という言葉は日本の社会にだいぶ定着してきたように思います。書店を見れば、ビジネス書の棚の中に「倫理」というコーナーを見かけることも増えましたし、企業実務においても企業倫理やコンプライアンスの研修はこの10 年の間に非常に増えました。大学など教育機関のシラバスを見ても、経営学部や商学部のカリキュラムの中に「企業倫理」や「ビジネス倫理」という題名の講義をよく見かけるようになりました。つまり、「企業倫理」あるいは「ビジネス倫理」という言葉は、実務や教育においても随分根付いたものと考えていいと思います。
元来この分野の学問的研究はアメリカやヨーロッパで盛んに行われてきた傾向があり、多くの実務における研修や大学で使われている教科書にはアメリカやヨーロッパの理論を基にしたものが多いように私は感じます。
しかし、歴史を紐解いてみると日本における商業道徳の原型となるものは、かなり昔からあったことがわかります。江戸時代には現在の滋賀県を中心として活動した商人である、近江商人の間には、倹約や利益至上主義への戒め、そして善い行いを絶対にひけらかしてはならない等、あるべき商人の姿を説いた思想が存在します。また、商業においては売り手の都合や利益を中心として商いをするのではなく、顧客満足(買い手よし)と、商業を通じた地域社会の発展・福利増進への貢献(世間よし)を目指さなければならないとする哲学、現代に言う「三方よし」が家訓として明文化されていることが確認されています。三方よしは現代企業の在り方を考える際にも、よく利用される概念であり、この概念がはるか数百年前に構築されていたという点は注目に値すると思います。
江戸時代の後期には儒教や仏教などの思想を絡めて、商業倫理を説く思想家たちが多く登場します。代表的な人物としては、もともと武将でありその後に出家して、仏教の立場から職業の在り方を説いた鈴木正三。商人として働いた経験と東洋思想を絡めて、あるべき商人の姿を説いた石田梅岩や、地方農村の復興の実践から得た知識と儒教思想の研究を基に経済哲学を説いた二宮尊徳などがあげられます。
鈴木正三は、人が自分の職業に一生懸命頑張ることがそのまま仏の道の実現であると説き、職業という人間活動と、その当時社会に広く受容されていた仏教の美徳が一致するものだと説きました。正三は、不正や不純な動機を排除し正直な心で儲ける事は実は仏道につづくものだと説いたのです。
一方、石田梅岩は、幼いころから商家への丁稚奉公へ出ており長く商業の実務に携わった経験を持ち、その後これらの経験と自ら研究を重ねた東洋思想の知識を基に、あるべき商人姿を探求し、且つ教育活動を実践しました。現代でいうところの、ビジネススクールの実務家教員に相当する方といえるのではないでしょうか。梅岩は儒教思想の影響から、家業の世代を超えた永続性を大変重要視しており、この思想は非常に多くの商人に普及しました。現代でも日本の企業組織は過去のお家制度の影響を受けていると言われることがありますが、一説によればこの梅岩の示した教えが日本企業に影響を及ぼしていると言われています。そして梅岩は思想家であるとともに大変熱心な教育者でもありました。彼は現代における市民講座に類した教育の場を設けて、そこを通じて広く教育も行いました。彼の講座では男女身分を問わず参加可能であった点など、今の社会教育にかなり通じる点があり、そういう意味においても彼の教育活動というのは非常に注目に値します。
二宮尊徳は農村再建の経験を通じて、得た知見を「報徳思想」という独自の思想体系にまとめています。この報徳思想では、経済活動は道徳的なルールにのっとって行われるべきであることや、経済・生産活動における相互の助け合いの重要性について触れられています。この尊徳の報徳思想は、日本の伝統的な商業倫理の中でも、特に多くの企業の実務家に影響を及ぼしたと思想である言われています。
時は経ち、ヨーロッパから近代資本主義が日本に入ってきた明治時代においても、日本独自の商業倫理の確立と教育が試みられています。その代表的な取り組みは日本近代資本主義の父とも呼ばれる渋沢栄一によって行われました。彼は、道徳的行為と営利的行為は相反関係にないことを示し、商業における道徳の重要性を指摘しました。また、思想や技術の輸入が推奨される社会的風土において、アダムスミスやベンサム等の海外の思想家を参照しながらも、儒教など日本の核心的な価値観をもとに独自の企業倫理の理論構築を行いました。「武士道の清廉さと商の才覚を併せ持って、商業を行うべし」としたスローガンである「士魂商才」という言葉は、現代企業の経営理念として、今もなお用いられている事例を見ることができます。
今日のまとめ:
現代社会において、企業倫理は大学でも実務の現場においても広く学ばれるようになりました。しかし、日本の伝統的な商業倫理については、まだ教育活動への活用は十分ではありません。しかし、歴史を紐解いてみると日本の伝統的な商業倫理は、現代企業のありように影響を及ぼしていることがわかります。日本の企業の今後の在り方や、抱えてる課題について考えるとき、これらの日本で培われた商業倫理を深く知ることは有意義なことかもしれません。

分野: 企業倫理 経営リスクマネジメント |スピーカー: 平野琢

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