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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワードで理解するイノベーション・マネジメント (58) 技術移転機関(TLO) (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワードで理解するイノベーション・マネジメント (58) 技術移転機関(TLO)

永田晃也 技術経営、科学技術政策

19/02/19

今回のまとめ:企業が大学の知をイノベーションに結び付ける上では、TLOを単に技術ライセンスのみではなく、共同研究などの探索段階から仲介役として活用することが肝要です。

前回に引き続きイノベーション・マネジメントの観点から活用できる制度を取り上げたいと思います。今回のキーワードは、技術移転機関です。これはTechnology Licensing Organizationという英語表現に対応しており、その頭文字をとってTLOとも呼ばれている組織です。ここでもTLOと呼ぶことにします。
TLOは、大学の研究者による研究の成果を特許化し、それを企業に実施許諾するためのライセンス契約を仲介し、そのライセンス収入を研究者に還元するといった一連のプロセスを担う組織です。つまり大学の研究成果を企業の新規事業に結び付け、その事業収益から研究資金を生み出して更に大学の研究活動を活性化させるというサイクルを回していくための組織であって、日本の政府はこれを「知的創造サイクル」と呼んできました。企業のイノベーション・マネジメントの観点から見れば、TLOは大学の知識を活用するための仲介役としての役割を果たしてくれる組織であるということになります。
このようなTLOの設置を促進してきた政策は、米国の政策を手本にしています。米国では、ともに上院議員であった民主党のバーチ・バイと共和党のロバート・ドールを中心とする議員らの働きかけにより、連邦政府の資金で大学が実施した発明の権利を大学に帰属させることを目的として、1980年に特許法の改正が行われました。このバイ=ドール法と呼ばれることになった法令は、大学による研究成果の事業化を促すことを目的としており、以後、TLOの設置が活発に行われることになります。
日本では、約20年遅れて類似の政策が採られることになりました。まず、1998年に「大学等技術移転促進法」が制定され、翌1999年には国の研究委託の成果を受託者に帰属させる「日本版バイ=ドール条項」を含む「産業活力再生特別措置法」という法令が制定されました。これより、日本でも政府による承認TLOが相次いで設置されることになったわけです。承認TLOの数は、2010年には46機関を数える状況になっていました。
しかし、そのようにして急速に拡充されたTLOの多くは、かなり厳しい経営状況に直面することになりました。2010年までの実績データに基づいて文部科学省と経済産業省が共同で作成した「産学連携の更なる機能強化に向けて」という資料がありますが、それによると2009年度の時点で、ライセンス収入が人件費や特許関係費でみた費用を上回っている機関は僅かに6機関に過ぎない状況にあったようです。
このような厳しい経営状況の原因は何だったのでしょうか。実は「大学等技術移転促進法」の制定から5年後の2003年には文部科学省の「大学知的財産本部整備事業」が始まり、これより各地の有力大学が学内に知的財産本部を設置して知財に関する活動を自ら行うようになったため、TLOの存在理由が薄れたということが、その理由として指摘されることがあります。
実際TLOによっては、それが赤字経営の主要な理由であった機関もあるでしょうが、知財本部とのコンフリクトを抱えたとは思えないケースも含めて非常に多くのTLOが赤字経営だったことに鑑みると、より本質的な理由があったとも考えられます。そもそもTLOの経営が厳しいという状況は、本家の米国でも同様なのです。
では、何が本質的な理由なのかと言うと、それは大学の研究者がもとより特許の取得を目標にした研究開発を行っている訳ではないため、その成果は特許性がある場合でも、企業が事業を展開していく上での技術的なポジション等とは無関係な特許にしかならず、ライセンスの引き合いを呼ぶような成果をもたらさないということだと思います。企業が大学の知を効果的に活用しているケースは、大学の知財がTLOを介して一方的に提示されることによって成立するものではなく、共同研究の機会を探索するなど企業の側から戦略的なアプローチが行われる場合に成立しているのです。
その後、承認TLOは整理統合が進み、近年では35機関になっています。この間、承認TLOの機能も強化され、本来の知財関連業務を超えて、技術の創出段階でのマーケティング機能や、コンサルティング機能を次第に備えるようになっています。企業のイノベーション・プロセスにおいて、TLOが重要なパートナーとなり得るのは、これからのことかも知れません。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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