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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 避難の遅れはなぜ起きる?~正常性バイアスと災害時の避難行動~ (企業倫理、リスクマネジメント/平野琢)

避難の遅れはなぜ起きる?~正常性バイアスと災害時の避難行動~

平野琢 企業倫理、リスクマネジメント

18/10/12

災害時に人の避難はなぜ遅れるかについて今日は扱っていきたいと思います。

防災の強化と被災地の一日も早い復興を祈るばかりです。現在、これらの災害を通じて、様々な防災における課題が私たちに示されていると思います。災害情報の遅れ、堤防等の物理的な対策の不足、そして避難所での被災者のケア不足等、取組むべき課題は、本当に少なくありません。これらの問題の中で、最近特に注目を集めている問題の一つが、避難情報が出ているにもかかわらず、地域の人々が避難をなかなかせずに、結果として被災してしまうような問題があります。よく映像に映っている避難が遅れた方々をヘリコプターで救出するなどもこの問題の一つではないかなと思われます。特に、過去に災害の被災経験の少ない地域が、このような災害に遭遇した際にこのような現象が発生しやすいと指摘されています。
また、国内の例に限らず、避難情報を出したにもかかわらずこのような避難の遅れがある例は、実は海外でも多く確認されています。例えば、2005年8月にアメリカ合衆国南東部を襲ったハリケーンカトリーナでは、政府が河川の氾濫以前に避難情報を出したにもかかわらず、多くの地域住民が実際の避難行動をしなかった為、多くの犠牲者が出ました。このような例に実は枚挙に暇がありません。そして、この問題は現代の災害対策の実務においても、私たちがやっている研究においても重要な課題の一つとなっています。

では、何故人々は避難情報が出されても避難しなかったのでしょうか。もちろん、このような避難の遅れには、避難先への移動に支援が必要で難しい等の様々な理由が存在することも確かです。しかし、多くの災害に関する調査では、自分で避難が可能であったにもかかわらず、多くの人々が迅速に避難行動に移れず被災してしまう事実を指摘しています。
では、避難可能であった人々はなぜ避難しなかったのでしょうか。この背景には、正常性バイアスという人の心の働き方が深く関わっていると言われています。最近、マーケティングやその他、医療分野でも注目を浴びている言葉です。この言葉を少し解説すると、この正常性バイアスは心理学において生まれた用語で、人間が生きていて自分の周囲で多少異常な事態が起こったとしても、脳がそれを正常な範囲内として捉え、心を穏やかに保とうする心の働きとまとめることができます。例えば、私たちが雪山でスキーを楽しんでいるとしましょう。その時、遠くの山で雪崩が起きたニュースを聞いたとします。その時私たちは、自分も雪山にいて雪崩の危険があるから即刻スキーを止めようとなるでしょうか?多くの人は雪崩は危険だけど、自分のいる場所は大丈夫だろうと考えて、結局はスキーを続行するのではないでしょうか。このように、人は周囲における多少の異常事態に対しても、これは大丈夫だと判断し、それを異常として捉えず平常の行動を続けてしまいます。
何故このような心の働きが備わっているかというと、何か起こる度に私たちの心が動揺してしまうと、人間疲弊してしまいます。結果何もできなくなってしまいます。したがって、この正常性バイアスはそのようなストレスを回避する為に、人間に備わった心の防衛機能の一種であると言われています。この機能のおかげで、私たちは日常生活において多少の事が発生しても、冷静に対応する事ができます。

しかし、その機能があるゆえに、それが働いてしまうと結果として大変な事が起こることもあるということです。このバイアスが働きすぎると、本当は身の危険が差し迫っているにも関わらず、その状況が危険だとして捉えられずに結果として身を危険にさらしてしまう状況に陥ってしまいます。昨今の例で言うと、2014年に発生した御嶽山の噴火の際にも、この正常性バイアスが働いて避難が遅れたのではないのかという指摘があります。この噴火の際には、巨大な噴煙を目の前にしても立ち止まってみたり、中には撮影したりする人々がいました。事後的にこの当時の映像を冷静な目で見てみると、巨大な噴煙を前に避難しなかった人々の行動が若干不思議に見えます。しかし、これは推測ですが、人々が迅速な避難行動に移らなかった背景には、ここまでは被害が及ばないだろうと恐らく感じるものがあったのではないかと思います。この事実は、正常性バイアスが私たちの想像以上に人の行動に大きな影響を及ぼす事を示しているのではないのかと私は思います。実際に過去の多くの災害事例の調査からは、自分の身を守る為に迅速に行動できる人は、大変少数である事が明らかになっています。一つの調査では、全体の約15%程度に留まるという指摘もあります。また、避難を指示すべき人が、この正常性バイアスによって、判断を誤り、避難指示が遅れて被害が拡大したと指摘する災害研究も非常に多く存在します。
総じていえば、防災において、正常性バイアスの存在が指摘されて結構長らく経ちますが、その解決は道半ばと言えるかもしれません。現在、災害に関する技術は日進月歩で進歩しており、これは防災における様々な課題解決に寄与してくれる事と思います。しかし、人の意識や心の働き方はどうしても技術によって改良できるものではありません。災害から尊い命を守る為にも、一人一人が心の働き方を知って、災害に備える事が重要であると言えるのではないでしょうか。

今日のまとめです。人は自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう傾向があります。これを正常性バイアスと言います。時に、この正常性バイアスによって、危機を知らせる災害情報を聞いても、自分は大丈夫だろうと楽観的に捉えてしまい、その危険性を正しく理解できなくなる場合が少なくありません。災害時には人が楽観的に捉えてしまう傾向がある事を意識して、先手の避難行動が大変重要です。防災といえば、備品の用意や避難場所の確保が注目されますが、このような意識や気持ちの面に関しても、備えあれば憂いなしです。

分野: 経営リスクマネジメント |スピーカー: 平野琢

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