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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 働き方改革について(その2) (企業財務管理、国際金融/平松拓)

働き方改革について(その2)

平松拓 企業財務管理、国際金融

18/10/26

前回は6月に成立した「働き方改革法案」と、そこに盛られた①長時間労働の是正、②雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保---という2つの柱、そして成立までの経緯といったことについてお話をしました。今回は、「働き方改革」の基本に立ち返って、その狙いを確認し、現状での評価を試みたいと思います。

アベノミクスの「働き方改革」の主たる眼目は、永らく続いてきた少子化傾向の帰結としての人口減少社会において、労働力人口(労働する能力と意思をもつ者の数)の維持を図り、同時に労働生産性の向上を図ることで、人口減少を経済成長の制約としないということにあります。もう少しかみ砕いて述べると、前者は、これからの人口減少とそれ以上のペースで進む生産年齢人口の減少に対し、女性や高齢者の労働への参加率を高め、また、外国人労働力の活用も図ることで、働く人の数を確保しようというものです。また、後者は、労働者一人一人の労働の質を高めることで、一人の労働者の時間当たりの生産高、即ち、生産性の向上を図るという、働き方の質に関わるものです。そして、両者の掛け算により、全体の生産高の維持、向上を図り、経済の成長路線を維持することが最終的な目標となっています。

この「量」と「質」それぞれについての実情を見ると、前者の「量」については、海外要因による好況からの求人増と生産年齢人口全体の減少もあって、既に女性就業者、高齢者就業者数共に大きく増加しており(過去20年間で高齢者就業者300万人増、女性就業者200万人増)、また、外国人労働者の数も顕著に増加(過去20年間で約110万人)していることから、実体が先行している面があります。改革では、こうした流れを円滑化し、且つ、今後の更なる生産年齢人口の減少に備えて、高齢者や女性の労働参加意欲の更なる向上を図ることを目的としています。この目的のためには、別途、育児休暇や保育園の増設といった多岐に亘る施策が講じられてきており、また、今回の働き方改革法で、正規・非正規の間の不合理な処遇格差の禁止や長時間労働の制限が盛られたということも含めて、既に相当踏み込んだ対策が取られてきたとも考えられます。

これに対して、後者の「質」、「生産性の向上」という面での施策はどうでしょうか。確かに、「学び直し」や「家庭との両立」支援のための細やかな対策も既に始められつつあり、今回の改正によって長時間労働から解放されることで、実際にスキルの高度化のための「学び直し」を行う余裕が生まれたり、多様な人材の参画や非合理的な待遇の格差が是正により、現場の「やる気」が高まって、イノベーションが生まれ易くなることも考えられます。しかしながら、生産性の向上策としては、やや間接的との印象がぬぐえないように思われます。「実行計画」には、より直接的な効果に繋がる課題として、「単線型の日本のキャリアパス」を変えること、即ち、付加価値の高い産業への転職・再就職による労働シフトを通じて、全体の生産性の向上に繋げるようなことも謳われています。しかし、この点については、これ迄のところ転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行の確立のために、「転職者の受入のための指針を策定し、経済界に要請する」という程度のことにとどまっているのが現状です。

もう一つ、終身雇用、年功序列賃金といった、戦中・戦後から続く雇用制度・慣行が、生産年齢の男性を主体とする同質的な労働力構成とも相まって、これまでの「働き方」を作って来たということを忘れてはならない点です。終身雇用や年功序列賃金などの雇用慣行・制度も、実際に生じている労働力構成の多様化という変化の中で、徐々に変化せざるを得ないとは考えられます。そのためもあってか、今回の改革に於いてはこれらには直接手を付けられておらず、労働力構成の変化がもたらす自然な慣行・制度の移行に委ねる姿勢が見られます。こうした点では、若干の迫力不足が感じられます。

とはいえ、企業と労働者双方の支持なくしては、働き方の改革は実現しません。両者の理解を得つつ、雇用慣行を変えていくには、それなりの時間がかかることを覚悟しなければならないということでしょう。その点で、国は今回の「改革」を、総合的かつ継続的に推進するものとして捉え、10年間とやや長めのロードマップを設定しています。この点は妥当な判断と言えましょう。

今回のまとめです。先般、「働き方改革法」が制定されましたが、これまでに行われた改革の幅広い施策によって、成長のための労働の「量」を確保するという目的については、相応の成果が見込めると思います。しかし、同じく重要な、労働の「質」の向上については、終身雇用や年功序列賃金体系などのこれまでの雇用慣行が急激には変わらないという制約の下では、進捗に時間がかかることを覚悟しておく必要があると思われます。

分野: 国際金融 財政 |スピーカー: 平松拓

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