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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 垂直統合(3) (企業戦略、生産管理/目代武史)

垂直統合(3)

目代武史 企業戦略、生産管理

18/09/20

 ここ数回は、垂直統合についてお話をしています。企業が上流・下流に事業範囲を広げることを垂直統合と言います。その動機の一つは、既存事業の上流や下流に付加価値の高い事業があることが挙げられます。しかし、上流・下流に付加価値があるとしても必ずしも垂直統合すべきでない時もあります。仕入業者や販売業者とうまく取引すればよいケースもあります。
 そこで、垂直統合すべき時とすべきでない時をどう見極めればいいかに関してこれまで二つの理論をご紹介してきました。一つは取引コスト論という考え方です。企業間で取引をするときに関わってくる様々な手間暇を最小化するように垂直統合の範囲を決める考え方です。もう一つは資源ベース論という考え方で、ある経済取引に特有な投資が必要になる時に自ら手掛けた方が効率が良くなる時は垂直統合するという考え方でした。今日は垂直統合を巡る第三の理論についてご紹介したいと思います。

 垂直統合していくと、自分の会社の中に色々な事業範囲が含まれてきて資産が膨らみすぎ、かえって身動きが取れなくなるということがあります。例えば、電気自動車(EV)にとってバッテリーの技術進歩は非常に重要です。EVの性能と価格の鍵を握ると言っても過言ではないでしょう。そのために、トヨタはパナソニックと合弁会社を設立して、バッテリーの開発と製造を自ら手掛けています。トヨタとしてはバッテリーという重要技術を手の内のものとするために垂直統合を図ったといえます。
 一方でトヨタと正反対の動きをとっている自動車メーカーがあります。それが日産自動車です。日産はEVのリーフが有名です。2010年の発売開始から今年6月末までの累計販売台数は世界中で34万台を超える台数です。その日産にとってEV用バッテリー技術は商品力を左右する最重要技術のはずですが、昨年の8月に驚くべき発表をしました。日産は元々NECと共同出資で立ち上げたバッテリー製造子会社を持っていましたが、これを中国の投資ファンドに売却するというのです。今後、EV用バッテリーは外部からの調達に切り替えるという発表をしました。
 これは取引コスト論の観点からしても資源ベース論の観点からしても説明が付きにくい意思決定です。バッテリーというEVの最重要技術を外部からの調達に切り替えると、例えばバッテリーサプライヤーに足下を見られて不利な取引条件を突きつけられる可能性も出ます。そうすると取引コスト論的に不利な状況に陥る可能性があります。また、外部のバッテリーサプライヤーに任せると日産向けにカスタマイズされたバッテリーの仕様や製造方法に投資してくれない可能性もあります。そうとなると資源ベース論的にもバツです。
 では、なぜ日産はこのバッテリー事業の売却という決断をしたのでしょうか。この疑問に答えるための鍵はバッテリーの未来をどう読むかという点にあります。今世界中の自動車メーカーやバッテリーメーカー、電機メーカー、素材メーカー、大学などがバッテリーの性能向上やコスト削減のための研究開発を行っています。どこがいつどれだけの性能向上やコスト削減を実現できるか誰にもわかりません。もちろんトヨタや日産も自らバッテリーの研究開発や製造を手掛けていますが、将来もトップを走り続けられるかはわかりません。もし自社開発のバッテリーの競争力が他に遅れをとるようなことになったらどうなるでしょうか。自社にバッテリー事業を抱えている限り、普通は自社の電気自動車には自社で開発したバッテリーを積むということにならざるを得ません。そうするとバッテリー性能やコストの点で他社に負ける可能性が出てきます。裏を返すと、もし自社にバッテリー事業を抱えていなければどこからでも自由に最も競争力のあるバッテリーを購入することが出来るということです。おそらく、日産は外部のバッテリーサプライヤーからバッテリーを購入することに伴う取引コストの大きさや、取引特殊的投資を取引先にしてもらえないという可能性と、その時々で最高のバッテリーをどこからでも買える自由度を持つこと、この2つを天秤に掛けて後者の自由度を取ったのではないかと考えられます。ある事業の将来価値やある技術の性能向上がどう転ぶか分からないというケースでは、むしろ垂直統合せずに市場で取引できるように意思決定の自由度を担保しておくことを重視する考えをリアルオプションと言います。

 今日のまとめです。企業の垂直統合を説明する3つの理論的枠組みをご紹介しました。第一は企業同士の取引を成立させるために必要となる様々な取引コストを最小化するように垂直統合をするか否かを判断する取引コスト論です。第二は特定の企業間取引にカスタマイズした企業特殊的投資、あるいは取引特殊的投資の必要性がどの程度あるかで垂直統合をすべきか否かを考える資源ベース論です。そして今日は、垂直統合の対象となる事業の価値が将来どうなるのか、その不確実性の程度によって垂直統合の是非を考えるリアルオプションという考えをご紹介いたしました。

分野: 企業戦略 |スピーカー: 目代武史

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