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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 富士フィルムの「写ルンです」は今なぜ売れているのか? (テクノロジーマネジメント、オペレーションズマネジメント、日本的経営/金子浩明)

富士フィルムの「写ルンです」は今なぜ売れているのか?

金子浩明 テクノロジーマネジメント、オペレーションズマネジメント、日本的経営

18/06/29

今日は、「すごい技術が市場の価値になるとは限らない」というお話です。
当然すごい技術があれば、それを元にこれまで出来なかったことを可能にする商品を開発して、お客さんに喜んでもらえることもあります。しかし、それは「技術があるから価値になる」のではなくて、「価値は価値として存在している」ということになります。つまり、すごい技術がなくても、お客さんにとって価値があると感じるケースがあるということです。

例えば、最近富士フィルムの「写ルンです」という使い捨てカメラが爆発的に売れています。「写ルンです」は、富士フィルムが1986年に発売したカメラで、正しくは「レンズ付きフィルム」です。実際に写真を撮ってもピントは調節できませんし、撮った後にそれがきちんと撮れているかどうかもわからない非常に簡易なものです。今の中高年の方は、学生時代に使っていた馴染み深い商品でしょう。

その後、デジタルカメラの登場、さらにはカメラ付き携帯電話(スマートフォン)の登場により、そもそもカメラ自体を持たない人たちが増え、カメラの売れ行きは悪化していきました。そうした流れの中で、「写ルンです」の売れ行きも悪化し、生産が縮小されます。そして2012年には大幅な生産縮小が行われます。しかし、何故か2017年には、売り上げが3年前の5倍へと跳ね上がります。
このきっかけになったのが、正にこの「写ルンです」の不便さでした。これが価値になるような環境が整ったわけです。それはInstagramの登場です。富士フィルムの「写ルンです」はフィルムですから、デジタルデータのInstagramとは繋がらないような気がします。しかし、実際にはこのInstagramの普及によって、「写ルンです」が売れるようになりました。Instagramのハッシュタグ#「写ルンです」には、28万5,000枚以上の写真がアップされているそうです。

では、一体どのようフィルム写真をInstagramにアップしているのかというと、方法は以下の通りです。
まず、実際に「写ルンです」で写真を撮ります。次に、昔と同じように写真屋さんに持っていきます。ただし、ここでフィルムをいわゆる写真に現像する必要はありません。現在は、写真屋さんでフィルムをデジタルデータに替えることができます。そのため、カメラを持っていき、そこでいわゆるCDに焼いてもらい、デジタルデータにしてもらいます。追加でお金を払うと、スマホにデータを転送してくれるサービスも行っています。そうやってデジタルデータ化された写真が、Instagramにアップされているというわけです。

かつて「写ルンです」で写真を撮っていた者としては、結局デジタルデータ化するのであれば、最初からスマホで撮ったらいいのでは?と思ってしまいますが、今の若者にとってはそうではないようです。
デジタルの方がピントも合いますし、色合いなども調整でき、最近ではお化粧をしているモードなど、びっくりするくらい綺麗に写るアプリがあります。そういったことが普通にできるようになった今だからこそ、逆に今の10代、20代の女性たちは、それが出来ないこの「写ルンです」にむしろ価値を感じているというのです。我々80年代、90年代世代にとっては、撮った写真を確認できない、撮り直しもできないことを不便に感じていたわけです。だからこそ、撮った写真を確認したい、失敗したときに撮り直しがしたいと感じていました。現像するまで時間がかかるため、「スピード現像」というサービスが生まれ、それに価値を見出していたわけです。そうやって、「不便さ」を改善しようとデジカメやスマートフォンのカメラが誕生してきました。これは非常に画期的でした。
逆に言うと、写真の不確実性や瞬間を切り取った瞬間の表情、やり直しがきかないといった写真の醍醐味は失われているわけです。我々が不便だな、不都合だなと思っていたものが、逆に今の若い人たちには新鮮に感じ、写真の新しい価値の発見に繋がっているわけです。80年代、90年代の学生は、現像されるまでの時間をゼロにしたいとずっと思っていました。はやく写真が見たかったわけです。しかし、今はその時間すら待ち遠しい。待つ時間さえも今の若者は楽しいんでいます。これは、物心ついた時からデジタルが当たり前で、撮った瞬間に見れるのが当たり前の時代を生きている人達にとっては、新鮮な体験になるわけです。ツルツルピカピカのきれいな画像ではなく、むしろ何かノイズが入ったような、或いは暗い所で上手く撮れなかったり、フラッシュを焚くとなにか人が浮かび上がってしまったり、そういったことが今の若者たちにとっての価値になっているのです。

では、今日のまとめです。
技術的に素晴らしいものが必ずしも市場の価値とは結びつかないということについて、「写ルンです」を例にお話ししました。ただし、これもInstagramという補完的な製品です。つまり、Instagramが普及し、デジタルカメラが安価で皆に手に入るようになる。こういう前提があって初めて、この「写ルンです」のレトロな価値が再発見されていくわけです。そのため、技術がないからそれがすなわち価値になるのではなくて、技術がなくても、それがある時代の他の何かの製品と組み合わさることによって、急に価値として再発見されるケースがあるということです。どうしても我々は、価値を生みだすことを考えた時、技術は常に進化・進歩していきますから、常に新しい技術、新技術、高度な技術に行きがちです。しかし、実際に枯れた技術で、むしろ技術的な優位性がないように思われるものの中にも、新しい価値に繋がる可能性があるということです。

分野: 技術経営 経営戦略 |スピーカー: 金子浩明

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