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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > アップルと自社株購入について(2) (企業財務管理、国際金融/平松拓)

アップルと自社株購入について(2)

平松拓 企業財務管理、国際金融

18/05/31

前回は、先日発表されたアップルの1000億ドルもの自社株購入枠の設定についてお話ししましたが、今回は自社株購入についてのアメリカ・日本の事情を見ておきたいと思います。

前回採り上げたアップルについて言えば、昨年迄の1年間で350億ドル、この1年間では500億ドルの自社株購入を実際に行ってきています。そして今回設定すると発表した自社株購入枠が1,000億ドルです。1000億ドルということは日本円では11兆円近い金額ですが、これは税制改正に伴う特殊ケースとしても、毎年4~5兆円という巨額の自社株買いがアップル1社によって行われている訳です。

日本でも自社株購入は増加傾向にあり、特にアベノミクスの一環で、以前より株主を重視しようというコーポレートガバナンス改革が行われていることもあって、ここ2-3年は史上最高レベルが続いています。とはいえ、その水準はといえば、上場企業の合計で5兆円程度と、昨年度のアップル1社と同じ程度に過ぎません。アメリカには日本と同じような上場企業の自社株購入金額の合計という統計が見当たらないので、非上場企業まで含めたもので見ると、最近では毎年1兆ドル(109兆円)近い金額の自社株購入が行われています。日米でどうしてこのような大きな違いが生じているのでしょうか?

一つは、アメリカ企業と日本企業の収益力の違いがあります。アップル1社の前年度の純利益は5兆円にのぼり、これは日本で最高のトヨタの1.8兆円の3倍近い数字です。また、ROE(株主が投資した資金に対して企業が挙げている利益)で比較しても、アメリカ企業は平均で2桁、15%程度を維持してきているのに対して、日本の場合は数年前の4%程度から、世界景気の好調を受けて漸く8%をクリアして、10%に届くかどうかというところにあります。

もう一つは、コーポレートガバナンスの実態上の違いが大きいと思われます。アメリカでは1970年代に、「株主による反革命」とも呼ばれますが、それまで大株主が存在しない状態の中で経営者が裁量的に経営を行うことが許された状態から、機関投資家を中心とする大株主の意向を無視できない形へと、資本市場に構造変化が生じました。これに対し、日本では戦後永らく株主は軽視され、従来のメイン銀行を中心としたガバナンスがバブル崩壊以降機能しなくなっても、株主を重視する姿勢への転換は進んで来ませんでした。それが、一連のコーポレートガバナンス改革によって、漸く変化の歩みを始めたところに過ぎません。

ガバナンス体制の違いを反映して、株式発行市場の状況は日米両国で大きく異なっています。株式発行は、借入や社債発行と並んで企業の主要な資金調達手段の一つで、企業は設立後も、増資やIPOなどに際して新規に株式を発行します。この新規の株式発行は、投資家から企業への資金の移転ということになります。これに対して、自社株購入やM&Aによる相手企業の吸収、或いは企業の解散といった場合には、逆に企業から投資家に資金が還流することになります。

この2つの方向の流れをネット、つまり差し引きで見た場合、アメリカの株式発行市場のでは、株式の純発行額(投資家から企業への投資から、企業から投資家への還流を差し引いた金額)は、永らくマイナスが続いています。しかも、その幅は多い時には6千億ドルにも達し、最近もそのレベルが続いているのです。つまり企業は、投資家から投資されるより遙かに大きな金額を、逆に投資家に還流させている訳ですが、こうして還元された資金は、投資家によって再び、スタートアップや上場前の資金を必要とする成長中の企業への投資に回されるというリサイクリング構造によって、新興企業によるイノベーションが支えられていると言われます。

この点、わが国の株式純発行額を見ると、戦後一貫してプラス、即ち、投資家から企業への投資が上回ってきましたが、最近、ガバナンス改革の効果もあってと思われますが、漸く逆転の兆しが見え始めたばかりです。

こうしてみると、日本のコーポレートガバナンス改革が定着し、日本企業がその収益力の向上のための積極的な投資を行い、同時に株主還元の強化にも努めるようになることが、将来的に日本においてアップルのような企業が誕生し、イノベーションの進展が見られるための条件と言えそうです。

まとめ:アップルの巨額の自社株購入枠の設定は、株主の期待に応える姿勢の表れと言えますが、同時にそれはアメリカにおける、新興成長企業を育成する投資資金の循環の一環をなしています。ガバナンス改革の進捗により、わが国にもそうした循環が早く生まれることが期待されます。

分野: ファイナンス 国際金融 |スピーカー: 平松拓

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