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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 貿易摩擦問題のもう一つの側面 (企業財務管理、国際金融/平松拓)

貿易摩擦問題のもう一つの側面

平松拓 企業財務管理、国際金融

18/05/07

最近、アメリカのトランプ大統領が各国に貿易問題での攻勢をかけていることで、世界経済が揺さぶられつつあります。今回はこの問題を、アメリカの国内経済の貯蓄・投資のバランスの観点から考えてみたいと思います。

NAFTAの再交渉、米韓FTAの見直し、鉄鋼・アルミ製品への高関税適用、さらには知的財産権に関わる中国への報復関税など、最近のトランプ大統領による貿易面での攻勢は枚挙に暇がありません。こうした攻勢の背景には、中国において米企業を始めとする外資企業に対して技術供与することが強要されているという問題もありますが、より基本的にアメリカが4,500億ドルを上回る巨額の経常収支赤字を計上しており、その主因としてモノの貿易が凡そ8,000億ドルもの赤字となっていることがあります。アメリカがこうした巨額の貿易赤字を計上しているのは相手国が不公正な取引をしているからであり、それを正さねばならない、というのがトランプ大統領の言い分です。

今回は、このアメリカの巨額の貿易赤字について、家計・企業・政府の3部門の貯蓄と投資のバランスが、全体で「投資超過」になっているという、国内経済面に焦点を当てて考えてみます。そのことを通じて、単に関税や非関税障壁、或いは為替相場といった取引条件の変更といったことを実施したとしても、この巨額の赤字問題はそう簡単に片付くものではないことが見えてきます。同じような議論は、1980年代の日米貿易摩擦の際にも行われた経緯がありますが、貿易摩擦を考えるときの重要な一つの側面です。

この、貯蓄と投資のバランスにおいて「投資超過」になっているとはどういうことかというと、国民所得全体について、どういう形で支出されるかという支出面、また、その所得を何のために分配(配分)するかという分配面に着目して考えると、家計部門、民間非金融法人企業、一般政府部門の3部門の収支尻の合計と経常収支が等しい、という関係が成立しています。平たく言うと、家計(個人・国民)が収入以上に消費していないか、企業が儲け以上に投資をしていないか、政府が税収以上に財政支出をしていないか、これら国内各部門の収支尻をチェックして、その合計がマイナス、即ち分配された以上に支出しているとすれば、それは海外から見た場合は受け取り超過、即ち、その国にとっては経常収支の赤字という形で賄われることになるのです。

そこで、実際に米国の家計、民間非金融法人、一般政府の各部門の貯蓄投資バランスを見ると、永らくアメリカの家計は日本などに比べて貯蓄率が低く、投資超過(つまり所得だけでは足りずに貯蓄を取り崩す、或いは借金してでも消費してしまう)の状態にありましたが、2008年のリーマンショック前後からは貯蓄率が上昇して資金余剰、即ち貯蓄超過に転じています。一方、米国の民間非金融法人は、資金余剰と資金不足の間を小幅に行ったり来たりという状態を続けてきていますが、ここ数年は僅かながら資金余剰、即ち貯蓄超過の状態となっています。これ等に対して一般政府(中央政府と地方政府)は、8千億ドルを超える巨額の財政赤字を計上しており、その規模は家計と民間非金融法人の黒字の規模を大きく上回っています。そのため、国内3部門全体として見た場合、顕著な投資超過(即ち資金不足)の状態にあります。

つまり、アメリカが巨額の経常収支赤字を計上しているのは、家計部門や企業部門の黒字に比べて政府部門の赤字が過大であるためであって、この関係に変化がないままでは、トランプ大統領が攻勢をかけているように、大幅な輸入超過になっている取引相手国からの輸入品に高率の関税をかけたとしても、問題は解決しません。つまり、高率の関税を掛けることによって仮に当該国からのその製品の輸入が減ったとしても、他の国経由で迂回して輸入されたり、他の国で生産された代替品の輸入が増えたりして、結局、アメリカの貿易収支や経常収支の改善に繋がらないことになります。

もちろん、アメリカ国内で価格が上昇することで、消費者がその品物の購入を諦めて貯蓄するとか、国内企業が同様の品物を作り始めて、国産品の購入に切り替えるといったことも多少は起こるでしょう。その結果、国内の各部門の貯蓄・投資関係に影響が及び、ある程度は投資超過が縮小するという可能性はあります。しかし、現実政治情勢を考えると、やはりそうはいかなそうです。というのも、トランプ政権は昨年末10年間で1.5兆ドルという大型の減税を決め、さらに2年で歳出を3000億ドル増やす予算関連法を成立させています。そのため、議会予算局の予測では連邦政府の赤字は昨年の6650億ドルから2020年度には1兆ドルを超えると見られています。

勿論、こうした減税や政府部門の支出拡大は、家計や企業の納税額の減少や収入増として跳ね返りますが、それに応じて、家計や企業が消費や投資を増やせば(そのことを目的とした減税なのですが)、それが税収の増加に跳ね返る部分はあるにしても、国内部門全体としての投資超過はさらに拡大することになりそうです。

最後にここで付け加えておくと、相手国の貯蓄投資バランスもこの貿易収支、経常収支に影響してくる訳ですが、いずれにしても、貿易問題で攻勢をかけて、取引条件を変えたとしても、それだけで大幅な赤字の解消には繋がらないのです。

まとめ:対象国の貯蓄投資バランスを考えることによって、貿易不均衡や経常収支の赤字の問題が、関税など、取引条件の修正だけで片付く単純な問題でないことが見えてきます。

分野: ファイナンス 国際金融 |スピーカー: 平松拓

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