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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワードで理解するイノベーション・マネジメント (52) 技術者倫理 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワードで理解するイノベーション・マネジメント (52) 技術者倫理

永田晃也 技術経営、科学技術政策

18/04/04

今回のまとめ: 技術者個人の行動規範とともに組織の規範体系のあり方を問うことは、イノベーション・マネジメントにおいても重要な課題です。

本編
 今回は技術者倫理をキーワードにお話したいと思います。
 技術者倫理に関する問題は、様々なレベルで扱われます。この分野での日本における第一人者である金沢工業大学の札野順教授によると、それは技術そのものの本質を問うレベル、技術と社会の関係のあり方を問うレベル、技術に関連する制度・組織はどうあるべきかを問うレベル、そして個々の技術者や企業はどう行動すべきかを問うレベルがあるとされています。つまり、ここでは技術者個人が行為の善悪を判断するための行動規範が扱われるばかりではなく、企業などの組織における規範体系のあり方が論じられるわけです。私は、このような技術者倫理に対して、技術的なイノベーションを追求する企業は自覚的であるべきだと思います。技術者倫理は、それ自体で1つの科目を構成する重要な領域ですから、イノベーション・マネジメントのテキストなどで教科の一部として技術者倫理のトピックが扱われることはないのですが、このシリーズではその重要性だけにでも触れておきたいと思いました。

 その重要性を理解して頂くために、技術者倫理のテキストで度々取り上げられてきた1つの事例を紹介します。それは、1986年1月28日に米国で起こったスペースシャトル・チャレンジャー号の事故です。この事故は、打ち上げから73秒後にチャレンジャー号が爆発し、搭乗員7名が全員死亡するという痛ましいものでした。
事故の原因は、ロケットブースターの各部分をつなぐ特殊ゴム製のO-リングという部品にあったことが後の調査で明らかにされました。チャレンジャー号の打ち上げ時の気温が摂氏2.2度という低温であったことからO-リングの弾性が低下し、密閉機能が果たされなかったため、燃焼ガスが漏れ出し、燃料タンクに引火したというものでした。
ロケットブースターの製造は、NASAとの契約によりモートン・サイオコール社という企業が担当していたのですが、このようなO-リングの問題については、NASAもサイオコール社も予め認識していたという事実が、やはり後の調査で明らかになりました。
サイオコール社に勤務していたロジャー・ボジョレーという技術者は、1985年1月に行われた15回目のシャトル打ち上げ後の検査でO-リングの問題に気づき、上司に報告していました。それはすぐNASAに伝えられたのですが、NASAは次に予定していた4月の打ち上げ時に問題となるような低温は想定できないことから、その見解を強調しないようボジョレーに要請してきたということです。ところが、この4月の打ち上げ後の調査においても、ボジョレーはO-リングに懸念を持つような兆候を発見します。
そして、チャレンジャー号打ち上げの前日、付近の気温が異常な低温になるという予想を知ったボジョレーらは、技術担当副社長のロバート・ルンドに、NASAに対して打ち上げ延期を進言するよう求めました。
シャトルの打ち上げには、全ての下請け企業の承認が必要とされていました。一方、この頃、シャトルの打ち上げ計画は全体として大幅に遅れていたため、NASAは予定通りに打ち上げを行いという意向を持っていました。このため、その日の夕方にケネディ宇宙センターとサイオコール社を結んで行われた遠隔会議では、NASA側はボジョレーらのデータが決定的なものではないという指摘を行い、サイオコール社への不快感を伝えることになります。
これを受けてデータを再評価するためにサイオコール社で行われた会議では、上級副社長のジェラルド・メイソンが他の幹部に経営的判断を求め、技術者の意見を汲んで反対の立場をとっていたルンドに対して「技術者の帽子を脱いで、経営者の帽子をかぶりたまえ」という言葉をかけます。こうして最終的にはルンドも賛成に回り、サイオコール社は打ち上げに同意することになりました。

 この事例は、自分がボジョレー、ルンド、メイソン、あるいはNASA側の担当者であったら事故を防ぐ行動をとれただろうかと問うことによって、様々な問題の次元を示してくれるでしょう。仮に技術者個人が専門職としての倫理綱領に適った行動をとれたとしても、それを尊重する規範体系を組織が持っていなければ、組織は自滅的な意思決定を行ってしまうこともあるのです。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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