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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ブックレビュー(3)グレアム・T・アリソン(宮里政玄訳)『決定の本質--キューバ・ミサイル危機の分析』中央公論社 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ブックレビュー(3)グレアム・T・アリソン(宮里政玄訳)『決定の本質--キューバ・ミサイル危機の分析』中央公論社

永田晃也 技術経営、科学技術政策

18/02/19

 今回はブックレビューの第3回としてグレアム・アリソンの『決定の本質』という本をご紹介したいと思います。この本は、1962年10月に発生したキューバ・ミサイル危機を、政治学者のアリソンが分析した結果を1971年に刊行したものですが、経営学の組織論や戦略論にも少なからず影響を及ぼしました。その後、新たに公開された情報を踏まえて、大幅に改訂された第2版が1999年にフィリップ・ゼリコウという歴史学者との共著の形で刊行されていますが、私がご紹介したい内容は、専ら初版に書かれた分析結果なので、ここではアリソンの本として取り上げます。ただ、あいにく中央公論社が出版した初版の訳書は現在入手困難ですが、日経BPから刊行された第2版の訳書は入手できると思います。
 さて、まずキューバ危機の経緯を簡単に振り返っておきたいと思います。この危機は、1962年10月16日から10月28日までの間に発生しました。この当時、世界はアメリカを盟主とする西側の資本主義諸国と、ソビエト連邦を盟主とする東側の社会主義国が対峙する東西冷戦と呼ばれる状況にあり、アメリカとソ連は核兵器開発でもしのぎを削っていました。こうした中にあって、アメリカの偵察機が、キューバに建設されようとしているソ連の準中距離弾道ミサイル(MRBM)の基地を発見したことが発端となります。これに対してアメリカは、キューバ海域近辺を海上封鎖し、ソ連の貨物船を臨検するという措置を採りました。10月27日にはキューバ上空を飛行していたアメリカの偵察機がソ連軍の地対空ミサイル(SAM)で撃墜されるという事件が発生し、一時は全面核戦争に進むことすら危ぶまれる事態となったのですが、翌28日にソ連が突然、ミサイルの撤去を決定したことにより、危機的事態は終息しました。

 アリソンは、一連の経緯について3つの問いを設定しています。「何故ソ連はミサイルをキューバに持ち込んだのか」、「何故アメリカは海上封鎖という形で反応したのか」そして「何故ミサイルは撤去されたのか」という問いです。そして、この問いに答えるために意思決定に関する3つのモデルを適用します。
 第1モデルは「合理的行為者」と呼ばれるもので、国家あるいは政府が選択する行為に、ある目標を達成する上での価値極大化的な合理性を仮定するモデルです。このモデルを適用すると、例えば「何故ソ連はミサイルをキューバに持ち込んだのか」という問いに対しては、当時アメリカがトルコにミサイルを展開していた事実を踏まえて、ソ連はミサイル・ギャップを解消しようとしたのではないかという合理的な答えが導かれます。しかし、このモデルの適用は、辻褄の合わない事実の説明に行き詰まります。例えば、ソ連が合理的な行為者であるならば、何故、ミサイルの建設現場をカムフラージュしなかったのかということが説明できない訳です。
 そこで、「組織過程」と呼ばれる第2モデルが導入されます。このモデルは、行為者を国家や政府ではなく組織というレベルで捉え、その行為をルーティン(既定の処理手順)の遂行として説明します。このモデルによると、ソ連がミサイルの建設現場をカムフラージュしなかった理由は、そもそも基地建設を担当していた組織に、そのルーティンが存在しなかったことから説明されます。
 さらに、アリソンは第2モデルの枠組みを拡張し、「政府内政治」と呼ばれる第3モデルの適用を試みています。このモデルは、政府の行為を、組織というよりも組織を構成する個々のメンバーの間で行われるかけひきの結果として説明します。このモデルを適用するためには、政府内のかけひきに関する詳細な情報が必要となりますが、実際にそうした情報を入手することは困難です。しかし、制約された情報の下でもアリソンが適用を試みた第3モデルは、非常に興味深い分析結果を示しています。特に意外に思われるのは、アメリカのケネディ大統領とソ連のフルシチョフ議長が、それぞれ強硬策を主張する周辺から遊離して、取り返しのつかない結果に対する責任を担っているという点で結び付き、核戦争に反対するパートナーであったという指摘です。
 アリソンは、国や政府の内部事情に関する情報が乏しいほど、我々が第1モデルに依存する傾向は強まると書いています。第3モデルの分析結果は、そのように情報が限られていても、状況を多角的な視点から分析することの重要性を示唆しているようです。

今回のまとめ: 新たな危機の時代に冷静に対処する上で、是非一読しておきたい本です。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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