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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ブックレビュー(2)新田次郎『八甲田山 死の彷徨』新潮文庫 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ブックレビュー(2)新田次郎『八甲田山 死の彷徨』新潮文庫

永田晃也 技術経営、科学技術政策

17/11/22

 今回はブックレビューの2回目として、『八甲田山 死の彷徨』という小説を取り上げます。この作品は、1971年に書き下ろしで刊行され、現在では新潮文庫で読むことができます。これを原作とした映画が『八甲田山』というタイトルで1977年に公開されています。作者の新田次郎さんという方は、1912年に生まれ、1980年に亡くなられましたが、小説家に転身される前は気象庁の前身に当たる中央気象台で働かれていた経歴を持ち、富士山気象レーダーの建設などにも関与された気象学者でした。そのため、新田さんの作品には山岳気象に関する知識を反映したものが多くみられます。
さて、『八甲田山 死の彷徨』という作品は、日露戦争の直前に当たる1902年(明治35年)1月に、日本軍が寒冷地での戦闘に備えて八甲田山で行った雪中行軍の演習中に遭難し、山岳遭難史上最大と言われる199名の犠牲者を出した事件に取材しています。つまり史実に基づいたフィクションで、ストーリーには史実と異なる点があり、作中人物の名前もモデルとなった実在の人物とは異なっています。この作品では、重要な史実を追体験することができるのですが、ここで紹介しているのは、あくまでも小説であるという点に注意してください。
 あらすじですが、この小説では神田大尉の率いる青森の歩兵第5連隊と、徳島大尉の率いる弘前の歩兵第31連隊が雪中行軍に取り組みます。
徳島大尉は、計画を上官に説明するに当って、予め全てを任せるという約束をとりつけ、その上で雪山に精通した者38名からなる少数精鋭の小隊を編成します。また、隊員には雪中行軍が研究的なものであるということを周知させ、それぞれに具体的な研究課題を与えた上で、案内人を立て、弘前から出発して240㎞を踏破する周到な計画を実行します。
一方、神田大尉は徳島大尉から聞いた意見を参考に当初、小隊の編成を希望しますが、第31連隊への競争意識を持つ上官の山田少佐から中隊編成にすることを指示され、その上、大隊本部が随行する計画を押し付けられます。この結果、第5連隊は210名の編成となり、行程は青森から出発して50kmを踏破するものでしたが、その目的は訓練を兼ねるあいまいなものとなりました。しかも、山田少佐の精神主義から案内人を立てずに出発することになりました。
不幸にもこの演習中に、記録的な大寒波が襲来しますが、第31連隊は苦闘しながらも全員無事に帰営することに成功します。しかし、第5連隊は猛吹雪の山中で道に迷います。途中、作戦会議の場で医官が計画を即時中止し帰営することを進言しますが、山田少佐は軍刀を抜き放って前進を指示します。このとき、神田大尉は指揮権を完全に奪われてしまいました。第5連隊は隊員が相次いで凍死する大惨事に見舞われ、神田大尉は自害しました。
この小説は、リーダーシップやリスク・マネジメントについて学習するためのケース・スタディの教材として、しばしば用いられています。おそらく、最も早い時期に、そのような観点から取り上げたのは、1983年に日経文庫の経営学入門シリーズの1冊として刊行された野中郁次郎先生の『経営管理』でしょう。この本のリーダーシップ論の章で、先生は2つの連隊の成否を分けた要因を、目標・戦略が明確であったか、強力なリーダーシップが可能となる組織構造であったか、山岳気象という不確実性の高い環境に対処できる権限配置であったかという観点から解説しています。
私は、もう1つ、この小説から学べることを付け加える上で、映画の『八甲田山』の中で最も印象に残ったシーンに触れておきたいのです。第31連隊の案内人を務めた農家の婦人で滝口さわという人物が登場しますが、この人は隊員が怯むほどの雪地獄の中で笑いを絶やさずに「兵隊さん、しっかりしなさい」などと言いながら先導し、隊員の心を支えます。原作では、お陰で無事に第31連隊が次の村に到着し、出迎えを受ける前に、徳島大尉が50銭玉1個をさわに与えて最後尾に下がらせます。しかし、映画では、高倉健さんの演じる徳島大尉が、案内人を下がらせますかという部下の進言を退けて、さわを先頭に立てたまま村に入ります。そして、第13連隊とさわの別れの場面では、秋吉久美子さんの演じるさわの後姿に向け、徳島大尉は「案内人殿に対し、頭右へ」という号令をかけて隊員に最敬礼させるのです。ブックレビューではなく映画のレビューになってしまいますが、この場面は原作で明示されなかった重要なメッセージを表象したものだと思います。それは、土着の知識・経験に対する深い尊敬の念が組織を救うということです。

今回のまとめ: リーダーシップのあり方等について考えさせられる小説です。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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