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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワード(38) クラスター (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワード(38) クラスター

永田晃也 技術経営、科学技術政策

17/03/29

今回のまとめ: クラスターとは、ある国において競争力のある多様な産業が市場取引を通じて連結し、集積した状態を意味しています。


 今回のキーワードは、「クラスター」です。以前、地域イノベーション・システムというトピックを扱った際に、詳しく解説したことがありますが、ここではイノベーション活動の立地に関するキーワードとして再び取り上げたみたいと思います。

 クラスター(Cluster)という語を、英語の辞書で調べると、まず果実などの房といった意味が引かれると思います。ブドウの房などがクラスターと呼ばれているわけですが、このイメージから産業の集積を意味する語として使われるようになりました。
 この意味でクラスターという語を使いはじめたのは、競争戦略論で著名なマイケル・ポーターです。ポーターは、1990年に刊行した『国の競争優位』という著書の中で、ある国の企業が特定の産業分野において他国の企業よりも素早くイノベーションを実現できる要因を分析しています。そこで提起された4つの条件とそれらの相互作用からなるフレームワークが、クラスターの概念的なモデルとして広く知られることになりました。
 ポーターが提示した4つの条件とは、「要素条件」、「需要条件」、「関連産業・支援産業」そして「企業戦略・競争戦略」です。
 「要素条件」とは、生産活動の投入要素である熟練労働や、インフラストラクチャーなどの資源を意味しています。「需要条件」とは、文字通り市場における需要が、どのような水準にあるのかを意味していますが、ここでポーターは、特に国内市場に要求水準の高い顧客(demanding buyers)が存在することが、イノベーションを加速させると述べています。「関連産業・支援産業」の条件については、特に国内のサプライヤーなどが、それ自体、強い競争力を持っていることが挙げられています。最後に「企業戦略・競争戦略」については、特に国内に強力な競合他社が存在することが、競争優位の創造と持続を促す条件として挙げられています。
 ポーターは、これら4つの要因が、相互関係を持つものであることを強調し、4点を線で結んだフレームワークを示して、「ダイヤモンド」と呼びました。要素間に相互作用があるということは、例えばある要素が国際競争において不利であっても、別の要素によって補完されることがあるといった状態を意味しています。このように4つの要素は相互作用しながら、全体としてイノベーションを創出する上での優位性を提供するシステムであると説明しています。
 その上でポーターは、こうした条件のシステム的な性質が、競争力のある産業のクラスター化を促進すると述べています。そこで具体例として挙げられたデンマークの産業クラスターのグラフでは、農業の一部である「大麦・麦芽・イースト」の生産が、それを使用する「発酵インシュリン」や「発酵用酵素」といった医薬品産業の製品に関連し、また「ビール」のような食品を介して「食品加工機器」や「冷蔵機器」といった製造業とも関連している複雑な相関図が描かれています。
 ポーターは、こうした事例を踏まえて、競争力のある産業が存在すると、相互強化作用によって、別の競争力のある産業の創造を助けると述べています。つまり、ここで言う産業のクラスター化とは、市場取引を通じて結びついた多様な産業の集まりを意味しているわけです。ブドウの房というクラスターの語意からは、同一の産業に属する多数の企業の集まりがイメージされますが、そうではないという点に注意しておきたいと思います。

 さて、クラスターという語が日本でも広く知られるようになったのは、一頃、政府による地域政策の中で、この語が頻繁に用いられたからです。しかし、いわゆる事業仕分けの過程で文部科学省の「知的クラスター創成事業」は廃止となり、経済産業省の「産業クラスター計画」も地域主導型に再編されました。ただ、大学や公的研究機関による研究成果の事業化を軸とする政策は、クラスターという語が本来意味していた競争力のある多様な産業の集積を形成することとは別の目的に向けられていました。企業の立地戦略の観点から見れば、政策の流行り廃りとは別のところに、クラスターという語の意味は生きていると言えるでしょう。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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