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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワード(33) 経験曲線効果 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワード(33) 経験曲線効果

永田晃也 技術経営、科学技術政策

17/02/08

今回のまとめ: 経験曲線効果とは、累積生産量が2倍になるたびに、単位コストが一定の割合で低下する現象を言います。

今回は、イノベーションから効果的に収益を回収するための戦略に関連するキーワードで、「経験曲線効果」(experience curve effects)という語を取り上げます。
これは、経営コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が1960年代に発見した現象で、ある製品・サービスを生産するための単位コストは、その累積生産量が2倍になるたびに、一定の予測できる割合で低下するというものです。ここで言う単位コスト(製品当たりコスト)は、製造コストだけではなく、管理、販売・マーケティングなどを含むトータルコストです。また、生産量の増加ではなく、累積生産量の増加を観察している点に注意してください。単に生産量が大きくなると単位コストが低下するということであれば、いわゆる規模の経済として知られていたことと異なりません。そうではなく、ここでは時間の経過に伴って増加する累積生産量を観察しており、したがって「経験曲線」と呼ばれているわけです。
BCGは、このような現象が、技術的な先進性の程度や、成長段階が異なる多様な産業分野に当てはまることを見出したのです。

この発見は、経営戦略論に対して決定的に重要な影響を及ぼしたと言われています。企業経営に関する戦略論の教育研究は、1970年代半ば頃まで一般的に「ビジネスポリシー」(経営政策)と呼ばれ、優れた経営者の理念などに関する議論が中心で、それらが十分に理論化されず、あまり科学的な検証もなされていなかったようです。こうした状況の中で、単位コストが累積生産量の増大に応じて規則的に低下するという事実が発見されたことは、企業のとるべき戦略を客観的に指し示す意味を持つものでした。
その戦略とは、ライバルよりも早く経験を累積するための戦略です。そして、企業が累積できる生産量は、そのマーケットシェア(市場占有率)に制約されますから、この戦略は究極的にはライバルよりも大きなマーケット・シェアを獲得することを目的とすることになります。
この点を、もう少し詳しくみておきます。例えば、ある製品市場で競合している企業のうち、マーケット・シェア1位の企業のシェアが40%、2位の企業のシェアが20%だとすると、両者のシェア格差は2対1です。しかし、通常1位の企業は40%のシェアを獲得するまでの間に、2位の企業に対して倍以上の累積生産量を上げることになりますから、それだけ単位コストを大きく低減させており、利益格差は2倍以上になっています。このような状況で1位の企業がコスト優位を活かして攻撃的な価格戦略をしかけると、相対的にマーケット・シェアが小さく、したがって生産効率が低いライバルを市場から駆逐することも可能になるでしょう。
BCGは、こうした状況を踏まえて、それぞれの市場セグメントで利益を上げられるのは3社程度であるとして、自社の顧客に対しては、ナンバー1ないしナンバー2になれる市場に集中する戦略を推奨したと言われています。
こうしたマーケット・シェアの効果は、ハーバード大学のビジネススクールの研究者らが中心となったPIMS(Profit Impact of Marketing Strategy)というプロジェクトでも検証されています。それによると、マーケット・シェアの10%の違いは、ROI、つまり売上からコストを引いて計算される収益を投資で割った投資収益率において、平均的に5ポイントの差をもたらすとされています。

こうした経験曲線効果の発見は、いち早く相対的に大きなマーケット・シェアを獲得するため、市場成長の初期段階で積極的な設備投資を行うといった戦略の合理性を示しているようです。しかし、経験曲線効果の存在を前提とした戦略だけに依存することも危険です。そもそも、なぜ経験曲線効果が生まれるのかについては、生産現場での学習効果の影響などが挙げられていますが、詳しく要因が解明されているわけではありません。一方にはマーケット・シェアが低くても、好業績を上げている企業が存在することも事実です。また、累積生産量の蓄積が進むスピードは、製品・サービス領域によって異なるので、そうした事業領域の特性を考慮して戦略を選択する必要があると言えるでしょう。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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