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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 今に繋がるドイツの経済改革② (企業財務管理、国際金融/平松拓)

今に繋がるドイツの経済改革②

平松拓 企業財務管理、国際金融

16/11/01

前回は現在のドイツの強力な経済基盤づくりに貢献したのは、東西ドイツ統合とユーロ導入を成し遂げたコール前首相の存在と、メルケル首相とコール前首相の間に政権を担ったシュレーダー前首相による改革であるということをお話しました。
今日はそのシュレーダー改革の内容についてお話していこうと思います。

ドイツを旅行したことがある人なら誰でも経験していると思いますが、ドイツではごく一部の業種や鉄道の駅を別にすると、日曜日は商店が大体閉まっていて、平日や土曜日も夜まではやっていないところがほとんどです。これは閉店法という法律で厳しく制限されていたということがありますが、10年程前にこの規制が、連邦全体の規制から州単位になったということで、かなり緩和されてきているようでもありますが、24時間営業のコンビニやスーパー・日曜日のショッピングに慣れきった日本人にとってみると、旅行したときは不便この上ないでしょう。

これはヨーロッパ全体に見られる傾向でもありますが、特にドイツでは厳格だということです。こうした事とも関連しますが、ドイツでは2000年代を迎えるまで、労働者を守ることに非常に重点を置いた労働政策がとられていて、解雇や有期雇用に対しても厳しい制限がありました。失業者に対しては手厚い補償が行われており、流動性に乏しい労働市場となっており、そのことが成長率の制約となり、高い失業率の原因と考えられました。こうした状況を改善するためには、市場原理に基づいて痛みを伴う労働市場改革が必要となるのですが、シュレーダー政権、つまり社会民主党政権はどちらかというと左派の政権で、組合を支持基盤としていました。そういったことを踏まえながらも、シュレーダー前首相は改革に取り組んだということになります。この為、シュレーダー氏は政権樹立当初は所得税の引き下げや、法人税減税、企業の株式売却に係るキャピタルゲイン課税の撤廃、あるいは消費の促進や企業活動に対する刺激となるような財政、税制面での改革を行って実業界から評価される一方、労働市場改革については、その前のコール政権が進めようとしたものよりもやや後退した内容、つまり、労働組合を支持基盤としているものですから、どうしてもそこのところの限界が指摘されていました。ところが2002年に当時フォルクスワーゲンの役員をやっていたペーター・ハルツ氏という人を長とする委員会を組成して、そこの提案に基づく政策を採用するようになってから、シュレーダーの労働市場改革は勢いを増したと言われています。
内容は多彩で、まず、新規雇用の促進のため、解雇保護法(労働者を解雇のリスクから守る法律)の小規模企業への適用対象を絞り、また、パートタイム労働・有期雇用契約法を改正して有期雇用を容易にし、小規模企業の場合には解雇もある程度やむなしという形に修正を加える等しました。加えて、失業期間の短縮化を狙って失業給付の受給期間を短縮化する一方で、連邦雇用庁を連邦雇用エージェンシーへと再編し、ガバナンス改革により官僚主義を排して顧客目線による職業紹介サービス提供へと改善させました。また、所得税、社会保険が免除、軽減となるミニ・ジョブ制度の導入や、個人創業助成金により労働者の自立化を図りました。その結果、失業率は経済成長の回復とも相俟って2005年をピークに低下を始め、リーマンショックの影響もほとんど受けることなく、4%台迄下がってきた。これらの労働市場改革について、連邦雇用庁の再編によるサービス改善などは大変評判が良いのですが、不安定な雇用が増加する一方で、有期雇用に対する規制緩和は所得格差の拡大に繋がったり、新たに導入したミニジョブも通常の就業形態へ架け橋としてあまり機能していないと、そう言った形で弊害の指摘や否定的な見方も結構あります。有期雇用の柔軟化と所得格差の問題というと、日本の小泉政権の時の派遣労働に対する規制緩和とも共通した面があると思います。それと同時にミニジョブの問題も103万円の壁や130万円の壁を抱えている日本の女性の働き方の問題とも相通じる面があり、なかなか興味深い問題であると言えます。つまり、こういった問題が日本と同様にドイツでも問題視されていると言えます。労働市場改革をこのような形で成し遂げたシュレーダー政権ではありましたが、やはり痛みを伴う政策を採用し、むしろ痛みの方が先行した部分もあったため、効果が現れ初めて2005年の選挙ではほんの2票と言われる僅差でメルケル首相に政権を譲ることになりました。そしてそれ以降、今日のメルケル氏の活躍につながるということになります。

それでは先生、今日のまとめです。
このように、ある1国の政治・経済状況を正しく位置づけるためには、時間軸を遡ってみる(それも10年以上)ことも重要ですが、これは日本経済を評価するうえでも言えることでしょう。目線を今後に向けると、同じ高齢化、労働人口減少の問題に対し、メルケル氏は積極的な移民受け入れという劇薬ともいうべき姿勢をとっていることで、国内での支持率が低下しています。これに対し、安倍政権は外国人労働力の導入ということについても少し前向な姿勢に転じているようですが、基本的には「一億総活躍」という、いわばマイルドな処方で対応していると言えるでしょう。10数年後、こうした両国の対応の違いは、どのような形で政治・経済パフォーマンスに表れるのであろうか、忘れずにいたい視点だと思います。

分野: ファイナンス 国際金融 |スピーカー: 平松拓

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