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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワード(28) 承認図方式 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワード(28) 承認図方式

永田晃也 技術経営、科学技術政策

16/10/20

今回のまとめ: 承認図方式とは、自動車部品の受発注において、自動車メーカーが詳細設計を部品メーカーに付託する方式です。

 今回は「承認図方式」という語を取り上げます。これは、自動車部品の開発・製造に関する自動車メーカーと部品メーカーの受発注方式の1つです。自動車メーカーが目標価格などの大まかな仕様の設定や基本設計を行い、詳細設計は部品メーカーに委託するという分担方式ですが、部品メーカーが提出した設計図を自動車メーカーがテストし、承認することから、このように呼ばれているのです。これに対して、自動車メーカーが詳細設計まで行い、設計図を部品メーカーに貸与して製造させる方式は「貸与図方式」と呼ばれています。
 自動車メーカーが必要な部品を調達する上では、この他に市販されている部品を購入する方法もあるわけですが、出来合いの部品を取引するのではなく、このように開発・製造段階から自動車メーカーと部品メーカーが何らかの分担関係にある受注方式は、継続的に部品取引を行う場合にしばしば採られてきました。こうした継続的な取引関係は、浅沼萬里という研究者によって早くから注目されていましたが、藤本隆宏、キム・B・クラークの2人が1991年に刊行した『製品開発力』という文献の中では、特に承認図方式が日本企業の優位性を説明する要因の1つとして取り上げられました。
 何故この方式が優位性に結びつくのかというと、日本の自動車メーカーの場合、部品の要求条件に関する情報が複数の部品メーカーに提示され、部品メーカーの間では、その受注を競い合う「開発コンペ」と呼ばれる状態が生じるからです。その結果、自動車メーカーが提示する当初の要求水準を上回る開発成果が得られることもありますし、このプロセスを通じて部品メーカーには開発能力が蓄積され、自動車メーカー側では、この方式を採ることによって、継続的に部品メーカーの開発能力を活用できるわけです。
 藤本教授らの調査結果によれば、部品メーカーが製造する部品のうち、承認図部品が占める割合は、日本では62%に達しているのに対して、アメリカでは16%、ヨーロッパでは39%に止まっています。一方、貸与図部品は日本では30%ですが、アメリカでは81%に達し、ヨーロッパでも54%を占めています。

 ところで、何故このように日本企業では承認図方式が普及したのかについて、藤本教授は1997年に刊行された『生産システムの進化論』という文献の中で、興味深い見方を示しています。それは1960年代に自動車の生産量が急速に拡大していく過程で、自動車メーカーは仕事を捌ききれなくなり、止むなく部品の詳細設計を部品メーカーに委託せざるを得なくなったのだけれども、それが結果的には高品質な部品の製造や、部品コストの低減に結びついたというものです。予め計画的に普及させられたわけでないので、藤本教授は、これを「怪我の功名」と表現しています。

 承認図方式が普及するきっかけが何であったのかについては、この「怪我の功名」仮説が説得的ですが、この他に普及が進んだ要因についても考えておく必要がありそうです。というのも、そもそも承認図方式は自動車メーカーの側からみて有利な点ばかりではなく、問題点もあるからです。
 部品開発を部品メーカーに依存し過ぎると、自動車メーカー側の開発能力が弱体化し、部品メーカーに対する交渉力を失うかも知れません。また、部品メーカーが蓄積した開発力や技術情報は、競合の自動車メーカーによって活用される可能性もあります。
 このようなリスクが理論的には想定されるわけですが、それにも関わらず実際に日本の自動車メーカーと部品メーカーの間で承認図方式が普及した理由の1つとして、両者が資本系列という企業間関係にあったことが挙げられます。この関係の中では、部品メーカーの側からみても取引を止めることに伴うリスクが大きいため、有利だからといって競合との取引のチャンスに乗るような機会主義的行動は抑止されます。また、この関係の中で行われる取引は、相互に関係特殊的な投資としての性格を持つため、どちらかが一方的に取引の停止を申し出ることによって投資が回収できなくなるといった「ホールドアップ問題」は起こりにくいといった状況が、承認図方式に安心感を付与したという理由も挙げられるでしょう。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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