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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 法人企業統計に見る日本企業の投資態度(1) (企業財務管理、国際金融/平松拓)

法人企業統計に見る日本企業の投資態度(1)

平松拓 企業財務管理、国際金融

16/07/06

アベノミクスの政策議論の中で、日本企業が「攻めの経営」を十分に行っていないのではないかということが、しばしば採り上げられます。皆さんの中にも、何となく日本企業の国内での活動には元気がないと感じている人がおられるかもしれません。そこで、客観的な数字でこうしたことが裏付けられるかどうか、法人企業統計という統計を用いて見てみることにしましょう。

法人企業統計は財務省が作成している統計ですが、企業の決算書に出ているような売上高や資産・負債・純資産などの各項目の残高に加え、役員や従業員数、人件費などを企業規模別、産業別に集計したサンプル調査で、四半期ごとに公表されています。海外子会社の数字は含まない国内企業単体のデータであること、サンプル調査であり毎年母集団が異なることなどには留意が必要ですが、項目相互間の比率やその変化を見ることで、国内企業の活動のおおまかな傾向が分かります。

まず、国内の投資状況を見るために、(金融機関を除く)全産業の設備投資金額を既存の設備量、即ち固定資産の残高と比較してみます。この比較の狙いは、企業が成長するためにはそれを支える設備の増加が必要で、そのためには積極的な設備投資による既存設備の上積みが不可欠ですが、そうした上積みが行われているかを見ようというものです。すると、1960年台は毎年固定資産金額に対し20数パーセントの金額の設備投資が行われていましたが、70年代になると10パーセント台後半に低下し、80年代には10パーセント台半ばで低下、バブルがはじけた90年代前半には10パーセント未満まで低下して定着しています。即ち、我が国企業の国内設備投資は既存設備残高に対して明らかに減少傾向を辿ってきた訳です。

ただ、こうした変化の背景には、日本の産業構造が年代と共に変化し、70年代の石油ショックを経て80年代にはそれまでの重厚長大型産業から軽薄短小型化へ構造転換を果たしたように、設備の軽量化、設備活用の効率化を実現してきたために、従来程の設備投資がなくても成長が可能になったという可能性も考えられます。そのことを確認するために、「固定資産回転率(売上高を固定資産で割った数字で、一定の固定資産がどれだけの売り上げに繋がっているかという指標)」を見ると、60年代の4倍台から70年代には5倍台に上昇していますが、80年代になると再び4倍台へ低下し、90年代には3倍台から同後半には一旦2倍台に突入し、2000年代に入って3倍前後で推移してきています。つまり、90年代後半以降は設備活用の効率性は寧ろ顕著に低下していた訳で、売上高成長のためにはより大きな金額の設備投資が必要であるにも拘わらず、実際には設備投資の勢いは低下していたことになります。

更にこの点を更に突っ込んで見るために、設備投資金額を減価償却金額で割ったネット設備投資比率をチェックしてみます。減価償却とは設備の減耗や陳腐化を反映して、投資金額を一定年数(例えば10年)に分けて費用化するものですが、減価償却金額と同水準の設備投資が行われていれば、会計上、設備の残高は維持されることになり、大筋で捉えれば、企業の事業規模を維持するために必要な投資は行われていると考えることができます。実際には60年代のネット設備投資比率は2倍前後ありましたが、70年代は1倍台後半、80年代は1倍台半ば、90年代に入ると1に近づくという調子で低下を辿りました。それでもそこまでは設備投資が減価償却を上回っていたのですが、98年以降は、リーマンショック前の2年間(2006、07年)とアベノミクスで急速な円安が進んだ2013年以降を除けば、1を割り込んでいました。即ち、98年以降は、企業が現状の事業規模の維持に必要な投資も行って来なかったことを示しています。

それでは、企業に投資を行うための資金がないのでしょうか?このことを確認するために、フリー・キャッシュフローを見てやることにします。フリー・キャッシュフローとは、企業が営業活動で生み出したキャッシュから投資に用いたキャッシュを差し引いた残りのことですが、具体的には、当期純利益に減価償却を足し戻し、棚卸資産など運転資本の変動によるキャッシュの需要を調整することによって求めた営業活動によるキャッシュ・フローを用いて求めます。そして、このフリー・キャッシュフローがマイナスならば、企業は投資を行うためには外部から資金調達を行わねばならないので、そのことが投資の制約となり得ます。しかし、実際には90年代半ば以降、企業のフリー・キャッシュフローはプラスで推移しており、特に最近については設備投資の金額は、営業活動により稼ぎ出されるキャッシュ・フローの6割程度にとどまという具合で、かなりな資金余剰の状態にあります。つまりこのことは、資金面では問題ないにもかかわらず、期待されるリターンが得られる見通しが立たないために、企業が国内での投資を手控えている可能性を示しています。
それでは、企業はこうした資金を一体何に使っているのでしょうか。その点については、次回にお話したいと思います。
 
まとめ:法人企業統計という一つの統計を見るだけでも、日本企業の活動についてかなりなことが見えてきます。「日本企業は国内で攻めの活動が行えていない」という最近の議論は、この統計によっても裏付けられます。

分野: ファイナンス 国際金融 |スピーカー: 平松拓

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