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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワード(23) パスツール象限 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワード(23) パスツール象限

永田晃也 技術経営、科学技術政策

16/07/18

今回のまとめ: パスツール象限とは、根本原理の解明と、実用的な応用開発をともに指向するタイプの研究開発を意味しています。


 今回は、「パスツール象限」というキーワードを取り上げます。「象限」というのは、おそらく皆さんが中学校で数学の時間に、X軸とY軸からなる座標の読み方を勉強された際に聞かれた言葉かと思います。XとYがともに正の値をとる右上の座標が第1象限で、そこから反時計回りに第2象限、第3象限、第4象限と呼んでいます。
 パスツール象限というのは、研究開発の1つのタイプを表す語で、ドナルド・ストークスという研究者が提起した研究開発の分類方法の中で示されたものです。ストークスは、研究開発の動機について2つの問いを設定しました。1つは、研究開発の目指す方向が実用的応用開発か否かという問いで、もう1つの問いは、根本原理の理解を目的としているか否かというものです。この2つの問いを軸とすることで、2×2のマトリックスを構成することができます。
 ストークスのマトリックスでは、この2つの問いに対する答えがともにイエスであるタイプの研究、つまり根本原理の理解を目指しており、しかも実用的な応用開発を指向しているような研究を「実用指向型基礎研究」と呼び、これを右上の第1象限においてパスツール象限と呼びました。これは、19世紀に活躍したフランスの科学者ルイ・パスツールの名前に由来しています。パスツールは、応用微生物学という基礎研究分野で実績を上げるとともに、医療分野においても、ワクチンの予防接種に代表されるような重要な業績を残しました。
 一方、根本原理の理解を目的とするものの、実用的な応用開発を指向しないタイプの研究は、「純粋基礎研究」と呼ばれ、左上の第2象限に「ボーア象限」として示されました。これは、20世紀のはじめに活躍したデンマークの原子物理学者ニールス・ボーアに由来しています。
 逆に専ら実用的な応用開発を指向し、根本原理の理解を目的としないタイプの研究は「純粋応用研究」と呼ばれ、右下の第4象限に「エジソン象限」として示されました。ご存知のように、トーマス・エジソンは様々な実用品を生み出した発明家です。
 残された左下の第3象限は、根本原理の理解も、実用的な応用開発も動機に含まれないタイプの研究です。ここに特別なラベルは付けられていませんが、ストークスは、この種の研究として分類学を上げています。

 さて、このようにストークスのマトリックスでは、研究開発について3つのタイプが示されているのですが、ここで特にパスツール象限をキーワードとしたのは、このタイプを定義したことにこそ、ストークスの分類の意味があるからです。
 研究開発のタイプに関する伝統的な分類は、基礎研究、応用研究、開発というもので、基礎研究と応用研究はカテゴリーが異なるものとして扱われていました。こういう一元的な並べ方では、ストークスの言うボーア型とエジソン型はカバーすることができても、パスツール型は捉えることができない訳です。
 ストークスの分類ラベルに名前が引かれた3人の科学者・発明家は、それぞれ全く異なった分野で活躍した人たちですから、その研究目的が異なるのは当然です。その意味では、このラベルは分野間にある自明の相違を表しているようなものであって、あまり出来がいいとは言えないかも知れません。しかし、このような個人の名前を冠するラベリングには、そういう動機で研究を行う科学者が確かに存在するということを再認識させてくれます。
 そして、この分類を大学の研究者に当てはめてみると、根本原理を追求しながら、同時に研究によって得られた基礎知識を現実の問題解決に応用していく指向性を持ったパスツール型の研究者が、イノベーションのプロセスにおいて重要な役割を担うものであることが浮かびあがってきます。
 実際、近年の産学連携に関する研究の中では、科学論文や特許などの様々なデータを用いることによって、パスツール型の研究者が特定され、そのパフォーマンスの高さが明らかにされているのです。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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