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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(20)ハイプ・サイクル (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(20)ハイプ・サイクル

永田晃也 技術経営、科学技術政策

16/05/04

 前回に続いて、イノベーションの普及に関連するキーワードを取り上げてみます。今回は「ハイプ・サイクル」です。
 まず(Hype)という語を英和辞書で調べられると、麻薬注射という忌まわしい意味の他に、誇大宣伝という意味があることが分かります。イノベーションの普及に関連してハイプという語が使われるときには、一般的に「誇大宣伝などに伴う過度の興奮状態」を意味しています。
 実際、新しい技術が注目され始める頃には、その可能性をめぐって誇大な宣伝が行われ、社会の期待が熱狂的に高まることがあります。その典型的な例として挙げられるのは、今世紀の初めに、ナノテクノロジー、つまり物質を原子や分子のスケールで制御する技術をめぐって米国などで高まった期待と、それに伴う投資の殺到と失敗です。この現象は、「ナノ・ハイプ」と呼ばれました。
 ナノ・ハイプの顛末が示したように、新技術に対する過度の期待は、それが直ちに満たされないことが明らかになると、大きな幻滅を引き起こし、その技術が社会的に受け容れられ、普及していくまでのプロセスに歪みを生じさせることがあります。IT分野のアドバイザリー企業であるガートナー社は、そのようなプロセスを「ハイプ・サイクル」として図式化しました。
 この図式では、「過剰な期待の頂き」から、「幻滅の谷」に落ち込んだ後、緩やかな「啓蒙の坂」を登り、やがて「生産性の台地」に至るというサイクルが示されています。
 ただ、このような図式の正当性に対しては、様々な批判が提起されていますし、私もサイクルとして一般化できるのかについては懐疑的です。しかし、新技術への過剰な期待の後に、極端な幻滅が訪れるという現象は、既に経験された事実ですし、そのような普及プロセスの歪みを未然に防ぐことは、イノベーション・マネジメントの課題と考えられます。

 私は、昨年ある学会で行った講演の中で、ハイプ現象のメカニズムは、行動経済学の分野で提唱された「双曲割引」の理論で説明できるのではないかというアイデアを提示しました。
 「割引率」とは、将来のキャッシュ・フローの現在価値を計算する際に用いられるものですが、現在受け取る価値を、将来受け取る場合、いくらなら等しくなるかというトレードオフ関係を表す尺度としても使われます。行動経済学の研究は、この割引率が、時間軸上で一定ではないということを、実験的に明らかにしてきました。
 例えば、ある大学で行われた実験では、1年後に1,000ドル受け取ることになっているとき、受け取りを早めて、いま現在受け取る場合、いくらなら等価と感じるかという質問から得られた割引率は約15%であったのに、いま現在1,000ドル受け取る代わりに、1年後に受け取る場合の割引率は40%に跳ね上がったと報告されています。これは、受け取りの先送りが、高い要求を呼び起こすことを示しています。
 こうした感情の揺れは、ひとが新技術に関する誇張宣伝によって過剰な期待を持たされた後で、その技術の普及によって利得がもたらされる時期が、ずっと先のことだと気付いたときには、その将来の利得を大きく割り引く、つまり幻滅する傾向を生じさせるのではないかと考えられます。
 ところが、この実験では、受け取りの遅れを1年の代わりに、2年、4年と延ばしてみたところ、どちらのケースでも割引率は10%に下がったという結果も報告されているのです。このように、不忍耐の程度が、現在の利得と将来の利得のトレードオフの場合に激しく低下し、近い将来と遠い将来の間ではほとんど低下しなくなる傾向が、双曲割引と呼ばれています。
 この発見は、新技術から利得が得られる時点がいま現在ではなく、将来であることが正しく理解されていれば、普及のタイミングに遅延が生じても、極端な幻滅は回避できることを示唆しています。

 昨今、水素エネルギーを利用した燃料電池応用製品に対する期待が大きく高まる一方、その期待が「ハイドロジェン・ハイプ」に陥るのではないかと懸念する声も上がっています。燃料電池応用製品の着実な普及を目指すのであれば、誇張宣伝は逆効果になることにも十分な配慮が必要だと思います。

今回のまとめ:ハイプとは、誇張宣伝が起こす過剰な期待を意味しています。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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