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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(19) キャズム (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(19) キャズム

永田晃也 技術経営、科学技術政策

16/05/03

 今回はイノベーションの普及に関するキーワードとして、「キャズム」という語を取り上げます。この語(Chasm)の意味を英和辞書で調べてご覧になると、大きくて深い「裂け目」とか「亀裂」といった意味を持つことが分かると思います。ジェフリー・ムーアというコンサルタントは、イノベーションの普及が始まる初期段階に、普及を妨げる大きな裂け目があるとして、それをキャズムと呼びました。この指摘が、どのような示唆をイノベーション・マネジメントに与えているのかを理解していただくために、普及研究の歴史をごく簡単に振り返っておきたいと思います。

 イノベーションの普及に関する初期の研究は、主に社会学者によって行われました。彼らは、新しい製品などの普及率が、伝染病の感染者の割合と同じように、時間の経過に伴ってS字型の曲線を描くことに注目しました。そして、伝染病の流行現象を研究対象としてきた疫学という分野で発展したモデルの適用を試みたのです。このモデルは簡単な数式で表すことができ、普及の開始時点や普及速度などの情報を与えてやれば、普及率を計算できるという便利さがあるため、S字型のカーブがよく当てはまる市場では、需要予測の手法に用いられました。
 しかし、伝染病の流行と、新製品の流行の間には1つの決定的な違いがあり、それが疫学的なモデルの適用に限界を画することになります。それは、伝染病の場合は、個人の意思とは関係なく、保菌者との接触によって感染することがあるのに対して、新製品を購入するかどうかは、採用者個人の意思によるものだという違いです。そして、その意思決定の基準は、採用者の所得水準や教育水準といった属性によって多様であることも分かってきました。そのような多様性が、疫学モデルだけでは説明できない不確実性の元になっているわけです。

 そこで、エヴェレット・ロジャーズという研究者は、採用者のカテゴリーを採用時期のカテゴリーに分けて分析しました。それらカテゴリーは、採用時期の早い方から順に、革新的採用者、初期少数採用者、前期多数採用者、後期多数採用者、採用遅滞者と呼ばれています。
 ムーアがキャズムと呼んだ普及の裂け目は、このうち初期少数採用者(Early Adopters)と前期多数採用者(Early Majority)の間に口を開けています。つまり、多くの新製品は、前期多数採用者に採用される前に、普及が止まってしまうという訳です。
 何故そのようなことが起こるのかというと、初期少数採用者と、前期多数採用者では、採用の意思決定に及ぼす価値基準が大きく異なるからです。ムーアによれば、初期少数採用者は新技術の創造性や可能性を重視するビジョナリー、進歩派であり、前期多数採用者は価格や品質を重視する実利主義者であるとされます。実利主義者は、進歩派による製品の評価などを参考にして採用を決定するわけではないので、両者の間には亀裂が生じることになるのです。

 キャズムを越えることが現在の課題となっている製品として、電気自動車、テレビ会議システム、ブルーレイなどが挙げられるかも知れません。ムーアは、キャズムを越えるための課題として、顧客の目的を達成するために必要とされる一連の製品やサービスを意味する「ホールプロダクト」というコンセプトを提唱しているのですが、これについては別の機会にお話してみたいと思います。

今回のまとめ: キャズムとは、イノベーションの初期少数採用者と、前期多数採用者の間にある普及の裂け目を言います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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