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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(16)知の「探索」と「活用」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(16)知の「探索」と「活用」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

16/03/11

今回のまとめ:組織学習のレベルには、知の探索と活用が影響を及ぼすとされています。


 今回は、ジェームズ・マーチが1991年に発表した論文の中で使用した知の「探索」(Exploration)と「活用」(Exploitation)という語を、キーワードとして取り上げてみます。Exploitationは、「深化」とか「深耕」と訳されることもありますが、ここでは活用と訳しておきます。
 この論文でマーチが取り組んだ課題は、組織と個人が相互に学習する生態系的なプロセスをモデル化することと、組織のパフォーマンスと競争優位の関係をモデル化することだったのですが、知の探索と活用は、特に組織学習のモデル化という課題において重要な意味を持つことになります。
 マーチは、組織学習のプロセスを分析するための方法としてコンピュータ・シミュレーション・モデルを用いているのですが、このモデルにも欠陥があることが高橋伸夫教授らによって指摘されています。しかし、ここではこの点には触れず、組織学習に及ぼす探索と活用というモデルの枠組みが、どのような影響力を及ぼすことになったのかを見ておきます。

 ここで言う探索とは、企業が保有する知識の範囲を拡張しようとすることを意味しており、活用とは既存の知識に改良を加えることなどにより深め、有効に利用していくことを意味しています。組織学習には、この両方が重要なのですが、概して企業は直ちに利益に結び付かない探索よりも、短期的な利益を求めて知の活用に傾斜しがちとなり、その結果、長期的なイノベーションが停滞することになります。マーチは、この現象を学習の近視眼(myopia)と呼びました。
 この現象は、その後、コンピテンシー・トラップ(有能性の罠)と呼ばれ、マーチ自身が91年の論文で使用した語ではないのですが、探索と活用の「両手使い」(ambidexterity)ができる経営、「両利きの経営」という命題に落とし込まれることになりました。「両利きの経営」は、「双面型経営」と訳されることもあります。

 ところで、この「両利きの経営」という命題こそが、イノベーションに関する世界最先端の研究成果であり、ビジネススクールでは学べない知見だという経営学者がいます。確かに、探索と活用のバランスをいかにして実現するかについては、非常に多くの実証研究が行われており、経営学者にとって最先端の課題とされてきたことは事実です。しかし、それら実証研究の中には、興味深い事実発見をもたらした成果も少なからずありますが、多くの成果はまだ十分な検証を受けておらず、知見として確立したとは言い難いものです。そもそも元になったマーチの分析自体が波乱含みなのですから。一方、ビジネススクールの学生に向かって、単に「新しい知識を探索することも既存の知識を活用することも重要だが、とかく企業は活用の方に偏りがちだ」などと言って聞かせれば、経営学者とは何と凡庸な教説を振り回す商売なのかと思われかねないだろうと、私は思います。つまり、この程度の知見はビジネススクールで学べないのではなく、教えるに値しないのです。

 ただし、マーチが取り組んだ組織学習のモデル化という課題は、まだ解決に成功したとは言えなくとも、それ自体として非常に価値のあるものです。この点については、別の機会に説明したいと思います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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