QT PRO モーニングビジネススクール

QT PRO
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QT PRO モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録 電子書籍で記事を読もう! EPUB

ブログ&ポッドキャスト詳細

QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > インダストリー4.0 (産業政策、通信政策、通信経済学/実積寿也)

インダストリー4.0

実積寿也 産業政策、通信政策、通信経済学

16/01/27


以前、IoTというものについてお話したことを覚えていますか?IoTとはInternet of Things、つまり「モノのインターネット」という意味で、これまでのインターネットが人間同士をつなぐことを目的としていたのに対し、様々なデバイス同士が、人間が関与することなく自発的に通信をおこない、さまざまなサービスを実現しようとするものです。こういったことが最近になって広く話題になったのは、情報通信技術の急速な発達により、小さくて安価なデバイスでも十分な性能が期待できるようになったという事情があります。コンピュータ技術者の間にはムーアの法則と呼ばれている経験則があります。これは、コンピューターチップの能力が18ヶ月毎に倍になるという法則で、言い換えれば、1年半で同じ機能が半分の価格で実現されるという意味になります。一年半で半分の価格になるということは、10年では100分の1、20年では一万分の1ということです。日本でインターネット普及の契機となったWindows95発売から去年でちょうど20年でしたから、現在私たちが使っているパソコンやスマホを価格性能比で考えると、インターネット普及期の10000倍の価値があるデバイスであるということになります。

さて、こうした高性能なデバイスは私たちの目にはそれとわからない形ですでに身の回りで大量に利用されています。通信機器製造業界最大手のCisco社の推計によれば、2008年の段階で、インターネットに接続されたデバイスの数は世界の人口を超えており、今日では世界人口の約3倍の機器がインターネットに接続して日々活用されています。東京オリンピックが開催される2020年、いまからわずか5年後の話ですが、そのときになると世界人口を遥かに超える500億ものデバイスがインターネットに接続している状況が予想されています。1980年代に提唱された古い言葉になりますが、ユビキタスコンピューティング、つまり、身の回りを眼に見えないサイズの小さくて高性能なコンピュータに取り囲まれて生活するという状況が実現するわけです。

さて、インダストリー4.0とは、こうしたモノのインターネットを製造業の分野で積極的に活用していこうというコンセプトで、もともとは2010年にドイツの連邦教育研究省・連邦経済エネルギー省が提唱したものです。背景には、日本と同じく少子高齢化による労働力不足に直面し、長期的に労働コスト上昇が見込まれるドイツにおいて、これまでの競争力の根幹を支えてきたドイツ製造業を引き続き発展させていこうというドイツ政府の強い意志があります。

モノのインターネットが製造業において活用されるようになると、大きく二つの効果が生まれます。一つ目は「製造業のサービス化」です。これは、顧客に完成品を納入したらオワリ、というのがこれまでの製造業のビジネスでしたが、製品に予めデバイスを組み込んで出荷することで、製品の稼働状況や動作環境に関する情報を用いた新しいサービスを行うことが可能になります。日本では建設機械メーカーの小松製作所が提供するコムトラックスという例が有名で、各建設機械からの情報に基づき、壊れる前に部品修理を手配するといったサービスを提供しています。タイヤで有名なミシュランも、タイヤにセンサーを取り付けることで、タイヤというモノの販売から、タイヤによる快適な自動車体験の提供を始めており、走行距離に応じてタイヤ使用料を支払うという新しいサービスビジネスをスタートさせました。これまでは製造業者は完成品を販売した後のビジネス、たとえば修理やメンテナンス、あるいは、買い替えや新製品導入に関する意思決定に関する部分を完全にコントロールすることができなかったため、顧客満足を大きく左右するかもしれない、そういった分野のビジネスを、独立の修理会社やコンサルティングファームに奪われ、さらには、新製品の開発につながるかもしれない実際の使用時の情報を入手することができませんでした。モノのインターネットにより、そういったことが比較的簡単にできるようになることで、製造業者にとって大きなビジネス上のメリットが生まれることが期待されています。

もう一つの効果は「マス・カスタマイゼーションの実現」です。これは製造装置やその間を動き回る半完成品にデバイスを組み込んで、リアルタイムに情報交換を行わせることで、一つ一つの製品をそれぞれの顧客の要望に完璧にマッチしたカスタマイゼーションを加えていこうというものです。インダストリー4.0のコンセプトでもっとも声高に喧伝されているのがこの効果になります。一人ひとりの顧客の希望を反映した製品がヒトの手を介さないで生産されていくデモンストレーションの映像はYouTubeなどに公開されていますから、ご覧になった方も多いかもしれません。どういったカスタマイズが必要かに応じて自動的に工程を組み替えるというダイナミックセル生産方式を、自律式のカートにのった製造途中の半完成品が移動していく映像は、未来を感じさせてくれます。さて、19世紀以前における製造業の主力であった手工業では、一人ひとりの顧客の注文に応じた一品モノを時間をたっぷりかけて作り上げるという多品種少量生産を行っていました。その後、産業革命による機械力導入により、バリエーションの少ない標準化された製品を短時間に大量につくることができるようになり、いわゆる少品種大量生産の時代に突入しました。モノのインターネットの力を使うことで、インダストリー4.0では、顧客ごとの一品モノを短時間に、かつ効率的に製造するという、新たな水準の多品種少量生産を目指しているわけです。

ただし、同様のシステム自体は日本の製造業にお勤めの方であれば特に耳新しいものではないかもしれません。例えば、車を購入する場合には、車種やボディーの色に加えて、さまざまなオプションを検討する必要があります。内蔵のカーナビのグレードをどうしようかとか、椅子を革張りにしようかとか、サンルーフをつけようかどうしようかと悩んだ経験をお持ちの方も多いはずです。その結果、自動車メーカーは多くのバリエーションの車を効率的に製造する必要に迫られており、そのためのシステムを開発してきました。同じ製造ラインをさまざまな色やサイズ、オプションをもった車が次から次へと流れる映像はニュースなどでもおなじみの光景です。そのため、インダストリー4.0によって実現されるマス・カスタマイゼーションの話を聞いて、「そんなことは日本ではすでに実現されています」という反応を示す方も多いです。

インダストリー4.0のマス・カスタマイゼーションシステムの最大の特徴は、それが企業系列を飛び越えて実現されるということです。日本で実現されているマス・カスタマイゼーションはあくまでも企業系列の存在を前提として構築されています。そのため、例えば、トヨタのプリウスに、日産フェアレディのテールランプをつけたいというカスタマイゼーションには対応できません。それに対し、インダストリー4.0のマス・カスタマイゼーションは系列の壁を超えて産業横断的な生産体制を構築することを究極の目的としているので、ベンツの車体にポルシェのシートをつけるといったニーズへの対応も可能となります。いわば、日本のシステムが企業単位でのスマート工場の実現を成し遂げたのに対し、一つの国全体、つまり、全ドイツの工場を全て構成要素とする形でスマート工場を実現しようとしているものだということができます。そのことによって、一つの企業だけでは達成できない効率化の水準に国全体として到達し、ドイツ製造業の国際競争力をさらに改善していこうとしているわけです。

加えて、これには別のメリットもあります。一部の地域で大規模災害が発生して生産設備が失われたり、あるいは急な需要増で生産設備の不足が予想されたりしても、その生産を他地域の工場がサポートすることで、ドイツ全体として「強靭な製造力」を保持することが可能になるわけです。災害大国日本としては、この辺りも見習う必要があるかもしれませんね。

分野: 産業政策・通信経済学 |スピーカー: 実積寿也

トップページに戻る

  • RADIKO.JP
  • ビビックスマホ