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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > インダストリー4.0と日本経済 (産業政策、通信政策、通信経済学/実積寿也)

インダストリー4.0と日本経済

実積寿也 産業政策、通信政策、通信経済学

16/01/28


前回はインダストリー4.0の目指すものについてご説明しました。今日は、インダストリー4.0に対して日本企業はどのように対処すべきかという点についてお話したいと思います。

そもそも、インダストリー4.0とはモノのインターネットを製造過程に応用することで、製造工程の自動化や無人化を可能にしたり、あるいは、一人ひとりの顧客のニーズにマッチした多品種少量生産、いわゆるマス・カスタマイゼーションを可能にしたりするもので、それによって製造業の国際競争力を高めていこうという産業政策でした。ただ、インダストリー4.0が目指す目標はこれだけにはとどまらないという指摘があります。むしろ、これだけなら、石油ショック以降、血の滲むような企業努力と歯を食いしばった設備投資で生産性を究極まで高めてきた日本企業にとってはそれほど大きな脅威とは言えません。

ただし、グローバル市場の動向を考慮すると全く違った状況が広がるのではないかという意見があります。
BOPという言葉をご存知ですか?BOPとは、Base of Pyramidの頭文字をつなげたもので、所得階層別人口ピラミッドの最も底辺に位置する人々のことを指します。年間所得でいえば3000ドル未満の層に該当します。2007年時点では、世界中で途上国を中心に約40億人、世界総人口の70%以上がこの層に属すると試算されており、これまで、この層に属する人々に貧困の削減や社会課題の解決といったソリューションを提供するビジネスが、いわゆるBOPビジネスとして注目されてきました。

あるシンクタンクは、このBOP層が、経済発展により2025年には一定の購買力を有するようになり、その結果、グローバルな製造事業者にとっての潜在的な市場規模が50億人になると予測しています。グローバル企業の膨大な製造力をもってしても、現在のままではこれだけの市場を相手にすることはできません。もちろん、新たに購買力を持った人々に、ハイエンドの製品を提供する必要はないので、先進国市場を相手にするときほどの設備は必要ないかもしれませんが、それにしても従来の数倍の需要を満たそうとするならば工場をどんどん新設しなくてはなりません。
インダストリー4.0は、企業系列の垣根を超えて生産効率化を実現する力をもっていますから、この局面では、マーケットに近い途上国に新設した工場を本社工場とネットワークでつなげて効率的に運営するという目的で活用することができます。つまり、途上国の工場に本社工場のノウハウを直接応用して最適な形で生産を行うことができるわけです。ドイツを本拠とする自動車部品と電動工具のメーカーであるボッシュ社のプロモーションビデオをYouTube上で観ることができますが、そこでは、世界中に散らばる工場の生産ラインを本社工場でモニタリングし、現地だけでは対応できない不具合が発生した場合には、テレビ会議やウェブカメラなどの情報通信システムを使って本社エンジニアが解決策を見つけ出すというシーンが含まれています。

これが日本企業にとって意味するものは重大です。現在、途上国市場で日本企業は安い労働力コストを活用した新興国企業に対し、匠の技を活かした高品質な製品を提供することで競争を行っています。価格は安いけれども品質に問題がある製品に対し、高価格であるけれども定評のあるジャパンクオリティという強みで勝負を挑んでいるわけです。これに対し、インダストリー4.0が想定どおりの効果を発揮すると、近い将来、新興国市場で日本企業が相手にしなくてはならないのは、安い労働力コストに先進国の製造業のノウハウを組合せたスーパーローカルな製造業群ということになります。これは、国内市場が少子高齢化により縮小を余儀なくされている日本企業にとっては、新興国市場の活力を取り入れることが不可欠であることを考えると、下手をすると新興国市場から追い出されかねないこのような動きは重大な脅威といわざるを得ません。

こうした状況に対して、具体的には、新興国市場に誕生するであろうスーパーローカルな製造業に対して、十分な国際競争力を持つためには、日本企業は何をしなくてはならないでしょうか?

まず、ドイツ主導のインダストリー4.0、あるいは、米国企業が主導している同様のプロジェクトであるインダストリアルインターネットに対抗しうる日本型のモデルというものをオールジャパンで作り上げるという「強者の戦略」が考えられます。わが国の産官学の総力を結集すれば、ひょっとすれば5年の遅れを一気に取り戻してトップに立てるかもしれません。規模の経済やネットワーク効果、つまり、大きな市場シェアを持ち、多様なサービスを提供できる事業者がますます強い競争力を獲得できるという性質を持つインターネットの世界では、一位を獲得したものだけが、破格の利潤にあやかれ、それ以外のプレイヤーは実質的に市場シェアを失うことになります。そのため、この強者の戦略の遂行には本当に強い意志が必要であり、いわゆる大企業のみがとりうる戦略ということになります。

それに対し、匠の技や品質へのこだわり、繊細さといった日本企業の強みを、インダストリー4.0の枠内で活かすという戦略も考えられます。一見すると、外国発の大きな枠組みのヘゲモニーを受け入れ、その中に積極的に埋没していこうという、「弱者の戦略」のようですが、特定の分野に関して世界最強のプレイヤーとなることで、逆にバリューチェーン全体の要としてグローバルな展開を模索することも可能です。日本企業の真の強みは中小企業の技術力であるといわれることが多いですが、この二番目の戦略は、その卓越した技術力を、国内の企業系列に閉じた狭い世界を飛び出して、グローバルな市場で活用することを目指すという積極的な戦略ということになります。ただし、この戦略は中小企業向けの戦略ではありますが、これまで系列の壁で守られてきた自社技術が直接グローバル競争に晒されるということになるので、仮に、自社のもつ匠の技が世界第一位のものでなかった場合には、廃業の危機に見舞われることになりかねません。つまり、第二の戦略は中小企業の真価を問うものということになります。

いずれの戦略を採用すべきかは、まずは企業規模と相談ということになりますが、これまで以上の効率化・合理化を求められる厳しい選択である点ではどちらを選択しても同じです。その意味で、短期的には失業率が上昇する懸念は否定できません。ただ、失業発生を恐れるあまり、いずれの戦略も採用しないで現状維持を図るという第三の道では、新興国に先進国のノウハウをもった製造業が誕生した際に太刀打ちができず、ホームである日本市場さえ奪われてしまいかねません。インダストリー4.0に対抗するにせよ、その要となる地位を獲得するにせよ、世界市場を獲得することができれば、50億人の消費者に提供するための生産増加が必須であり、短期的な失業問題は解決に向かうことが期待できます。

少子高齢化による経済縮小が予想されるわが国にとって、国内産業の国際競争力を維持し、これまでの生活水準を確保するためには、インダストリー4.0に対し積極的に対応していく必要があると思います。

分野: 産業政策・通信経済学 |スピーカー: 実積寿也

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