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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 企業の海外事業課税に係る問題(米国編) (企業財務管理、国際金融/平松拓)

企業の海外事業課税に係る問題(米国編)

平松拓 企業財務管理、国際金融

15/10/07

以前、日本では30%台に高止まりしている法人税率を20%台に引き下げるために、安部政権が法人税改革に取り組んでいるという話をしましたが、その際に法人税率が日本より高いアメリカでは、企業が様々な優遇税制の利用ばかりでなく、海外事業を利用した租税回避により実効税率の引き下げを行っているという話をしました。

実際にアメリカでは州税も併せると法人税率は40%近くと、先進国中最も高いにも拘わらず、これまで税率の引き下げが進んできませんでした。こうした中、大手企業による海外への所得移転を通じた国内課税回避の動きが広がっています。GE(ゼネラル・エレクトリック)が1兆円以上の利益を上げながら法人税を全く納めていなかったといったニュースは日本でも伝えられましたが、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、ナイキ、シティ・グループなどの錚々たる企業が所得の海外移転を通じて租税回避を行っているということは、アメリカでは最早常識にもなっています。これら大企業が回避する法人税額は、軒並み毎年数百億円から数千億円と巨額に及び、結果として海外に滞留することになったこれら企業の資産総額は、数十兆円にも及ぶといわれています。

これらの企業が租税回避を行うための手法は大体共通しています。多くは、「ダッチ・サンドイッチ」、これは低税率国の代表としてオランダの名前がついているのですが、低税率の国においた子会社等との取引を行い、これらの企業に利益を移転する形で、アメリカでの法人税支払を回避、或いは減額しています。これは、現行の税制のループ・ホール(隙間)を突いたもので脱税ではないことから、処罰の対象とはなっていません。最近ではオランダに加え、アイルランド、バミューダ、ケイマン諸島といった有利な税制を持つ国を複数利用するスキームなども現れています。もう一つは、「タックス・インバージョン(課税逆転)」といわれる行為で、海外の企業の買収や合併に際して本拠地を統合相手の税率の低い国に移転する方法で、こうしたことも医療関連企業などを中心に事例が増えています。

この結果、租税回避が行える大企業(多国籍企業)と行えない中小企業の間で、法人税の実際の負担率があるべき姿から逆転(即ちフォーチュン500にランキングされるような企業では20%弱にまで下がっているのに、中小企業では30%を上回り高止まり)し、更にその乖離が広がっていることから問題化しています。また、海外に移転して法人税を回避した所得について、当該企業もアメリカの親会社等へ還流させることを望んでおり、また、アメリカ政府も還流させることによって国内での投資や雇用の拡大に繋がることを期待しているにも拘わらず、取り寄せの際には35%の"Repatriation Tax"(本国還流課税)を支払う必要があるので、数百兆円ともいわれる巨額の資金が活かされずに海外に滞留していることも問題視されています。

こうした状態に対して、オバマ政権も来年度予算審議に向けて、法人税率の引き下げと併せ租税回避のループ・ホールを塞ぐための海外所得の税の繰り延べの廃止や、企業が海外で稼いだ利益を米国に還元させるためのインセンティブなどを内容とする法人税改革を提案しています。具体的には、連邦法人税率を現在の35%から28%(製造業は25%)へと引き下げる一方で、海外に本拠を移転できる企業の米国内持ち株比率を20%以上から50%以上に引き上げること、また、海外事業における利益に対しては今後繰り延べを許容せずに19%の税率で課税すること、さらにこれまでの海外滞留所得に対して14%の税率で1回限りの課税を行うこと―――などを内容としています。

とはいえ、今回も提案が実現に至るかは予断は許しません。確かに内容的には税率の引き下げなど企業にとり魅力的な項目も含まれますが、引き下げ後の税率の水準や、海外所得への課税が残る点などは、企業の期待に十分に応えるものにはなっていないという見方があります。企業が議会上下両院で与党である共和党を中心に強力なロビイング活動を繰り広げる中で、オバマ政権は法人税率の引き下げ幅や海外事業所得に対する適用税率、さらには海外滞留所得に対する1回限りの課税の税率やその財源の使途など、多くの点について異なる意見の調整を図らねばなりません。

しかし、アメリカ経済を考えた場合、あまり悠長なことも言っていられない状況です。イギリスの著名な経済雑誌、「The Economist」によれば、海外に拠点を移すための米国企業による海外企業の買収の逆の動きとして、同じ目的で海外企業による米国企業の買収が急速に増えており、本年9月迄で、これまでの年間最高であった2007年全体の記録に迫ろうとしていることを報じています。国際的な税環境との調和は待ったなしの状況となっています。

まとめ:法人税が高止まりしている米国では、海外拠点への所得移転や海外企業買収を活用した租税回避の動きが大企業中心に広がっており、問題化しています。オバマ政権はそれに対して税制改革提案を行っていますが、内容的にはループ・ホールを塞ぐ対応という色彩も強く残っています。合理性に基づいて行動する米企業の対応を考えた場合、法案の成立や、譬え法案が成立したとしてもそれで租税回避の動きが収束するかは、予断は許さない状況といえます。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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