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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(6)情報の非対称性 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(6)情報の非対称性

永田晃也 技術経営、科学技術政策

15/08/26

 今回は「情報の非対称性」という言葉を取り上げます。これは経済学の契約理論の領域で発展させられた用語ですが、イノベーション・マネジメントの課題に対する理解を深める上でも役に立つと思います。

 情報の非対称性とは、市場での売り手と買い手の取引において、ある情報が一方の側にだけある状態を意味しています。伝統的な経済学は、売り手と買い手の間で完全に情報が共有されている状態を想定して市場のモデル化を行いましたが、情報の非対称性に関する理論は、それを否定することから出発しています。非対称に情報が存在するということが何故重要かと言うと、それが「市場の失敗」と呼ばれる状態をもたらすと考えられているからです。

 この用語が最初に用いられたのは、ジョージ・アカロフという経済学者が1970年に発表した論文においてですが、そこでは中古車市場を例とする分析が行われています。中古車市場では、買い手が良質な中古車と、「レモン」と呼ばれる欠陥車とを区別し難い状態にあり、そこで良質な中古車にも欠陥車にも平均的な価格が付けられると、疑心暗鬼となった買い手は平均以下の価格でしか中古車を買おうとしなくなるため、結果的に良質な中古車が流通し難い状態に陥るというのです。この状態は、「逆選択」とか「逆淘汰」と呼ばれています。

 同様の状態は、イノベーションに関連する市場でも起こり得るのです。例えば、ハイテク・ベンチャーが資金調達を行うための市場では、様々なプロジェクトが起業家からベンチャー・キャピタルに提案されます。それらのプロジェクトが、どの程度のリスクを伴うものであるのかに関する情報は、起業家の側にだけ存在することがあります。このとき、一律に貸出金利が設定されると、貸し倒れリスクの高いプロジェクトばかりが残り、優良なプロジェクトは市場から逃げ出してしまう可能性があります。

 この例は、契約が結ばれる前に情報の非対称性が存在することに伴う市場の失敗ですが、契約締結後に存在する情報の非対称性が問題になることもあります。
 例えば、委託開発では、契約締結後、一定期間を通じて開発業務が委託されているわけですが、そもそも開発業務が委託されるのは、委託側(プリンシパル)にない専門知識が、受託側(エージェンシー)に存在するからであり、その開発業務がどの程度の困難を伴うものであるのかに関する情報も非対称に存在することになります。このような場合、受託側が業務の遂行に対して正当な努力を払わないというモラル・ハザードが発生する可能性があります。

 こうした情報の非対称性に伴う問題への対応策としては、情報を保有している側に、その情報を開示させる何らかのシグナルによって非対称性を緩和させる方法が考えられます。ハイテク・ベンチャーに対する資金貸出の例であれば、ベンチャー企業に業務遂行能力を証明する情報の提供を求めるという方法があります。委託開発の例では、契約更新の可否を判断する中間評価を導入し、評価に際して中間的な成果に関する情報の提供を求めるという方法があります。

今回のまとめ:イノベーションに関連する機能の多くは専門的知識を要するため、それらの機能が市場取引の対象となる場合、しばしば情報の非対称性が存在し、「逆選択」や「モラル・ハザード」を引き起こすことがあります。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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