QT PRO モーニングビジネススクール

QT PRO
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QT PRO モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録 電子書籍で記事を読もう! EPUB

ブログ&ポッドキャスト詳細

QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 共同研究開発と競争政策 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

共同研究開発と競争政策

永田晃也 技術経営、科学技術政策

15/03/25

今回のまとめ:共同研究開発に対する競争政策の規制には、国ごとに異なる制度の進化をみることができます。


 これまでイノベーション・システムの特徴を国や地域ごとに捉えてきました。その過程で、イノベーションに関連する各国の制度には、初期時点で行われた制度の選択なり構造的配置が、その後の制度の進化に影響を及ぼす傾向があるということや、しばしば諸制度の間には互いを補完する関係が存在していることなどに触れてきました。今回と次回では、このような特徴を、特定の制度に関する国際比較を行うことによって確認しておきたいと思います。
 まず今回は、競争政策と共同研究開発に関する制度を取り上げます。

 競争政策とは、競争的な市場環境を維持・促進することによって望ましい経済効果を実現しようとする政策として、一般的に定義されています。関連する法制が、日本では独占禁止法、米国では反トラスト法であることなどは、これまで度々述べてきました。
 一方、共同研究開発に参加するパートナーの関係は、同業種の企業同士、異業種の企業同士、企業と大学や公的研究機関が行う産学連携など多様なのですが、特に同業種の企業同士が共同研究開発を行う場合、競争を制限する可能性があるものとみられ、競争政策による規制の対象となることがあります。

 そもそも同業種の企業が共同研究開発を行うことには、当該企業にとって、どのような利点なり問題点が伴うのでしょうか。この点を整理しておくことは、競争政策による規制の合理性を理解する上で重要です。
 まず利点については、参加企業が保有している技術知識が相互に補完的であれば研究開発に対する取組の質を高度化させる効果があることや、研究開発に伴うコストを分担し、リスクを分散させる効果があることから、結果的に大規模な研究開発を実施できるといった点が挙げられるでしょう。また、競合企業間で研究開発テーマが重複することを避ければ、その分、多様な研究開発テーマを探索することが可能になるといった利点も生じます。さらに、競争的な関係の下でイノベーションを実施すると、競合他社がイミテーターになる可能性がある場合、共同研究開発は潜在的なイミテーターに予めコスト負担をさせる効果を持つことになります。この最後の点は、「専有可能性問題の内部化」と呼ばれています。
 一方、共同研究開発に伴う問題点としては、参加企業がもともと競合関係にあるため、互いに隙あらば相手の努力にただ乗りしようとする態度--機会主義的な態度をとる虞があるという点が指摘されてきました。この点は、参加企業間に情報の格差--情報の非対称性と呼ばれる状況が存在するときに、深刻な問題となります。
 これは参加企業にとっての問題点ですが、政策的な観点からみれば、共同研究開発が競争制限的な効果を持つために、却って企業が研究開発に熱心に取り組まなくなることや、共同研究開発の目的を超えて、さらに競争制限的なカルテルなどが結ばれる可能性が懸念されます。

 こうしたことから、共同研究開発は各国の法令に抵触する可能性があるのですが、日本では1961年に鉱工業技術研究組合法が制定され、比較的早い時期に共同研究開発を促進する制度が整備されました。それは、当時の日本企業が1社の力だけでは欧米の主要な競合企業の技術力に伍していけない状況を背景にした政策だったと言ってよいでしょう。この制度の下で、1976年に発足した超LSI技術研究組合のように、世界的な注目を集めた取組も生まれました。
 さらに日本では1993年に公正取引委員会が「共同研究開発に対する独占禁止法の指針」を発表し、その中で参加企業の市場シェアの合計が20%未満ならば競争阻害性はないと判断し、20%を超えても即違法とはせず、研究の性格や共同化の必要性などから判断することなどが示されました。

 一方、米国では反トラスト法による規制が強く、これに抵触した場合のペナルティが大きいことや、そのリスクを冒すくらいならばM&Aやヘッドハンティングが選択されるほど流動性の高い社会であること、また共同研究のパートナーとしては世界トップレベルの研究大学が存在したことなどから、もともと同業種企業間の共同研究開発の数は少なかったことが知られています。
 しかし、日本企業との競争に直面するようになったエレクトロニクス産業などで規制緩和を求める声が出始めたことを背景に、1984年に施行された「国家共同研究法」という法令では、共同研究開発という行為そのものを当然違法とするのではなく、経済厚生に及ぼす影響を個別に判断する「合理の原則」が採られるなど、規制緩和の方向が打ち出されました。この規制緩和の方向は、1993年に施行された「国家共同研究生産法」で拡大されています。このあたりの詳細は、宮田由起夫教授の研究によって明らかにされています。
 なお、もともと域内の共同化を目的とするEUでは、共同研究開発に対する規制緩和は日本や米国よりも進んでいます。

 さて、このような規制緩和の下で、先進各国では1970年代から80年代にかけて共同研究開発が活発化しましたが、同じ制度の下で行われても、全てのプロジェクトが期待どおりの成果を挙げている訳ではありません。日本の事例では、前述した超L研は概して高い評価を得ていますが、その後行われたプロジェクトの中には厳しい評価を受けたものもあります。米国では、1987年に設立されたSEMATECHという半導体のコンソーシアムは成功例として取り上げられることが多いのですが、1982年に設立されたMCCというプロジェクトは批判的な評価を受けています。
 共同研究開発に伴う問題点は、参加企業が機会主義的な態度をとる可能性にあると申しましたが、そうだとすれば、共同研究開発の成否は、この可能性が顕在化する程度にかかっていると見ることができます。超L研が組織された当時の日本のエレクトロニクス・メーカーは、IBMという巨大多国籍企業の脅威を前にして協力せざるを得ない状況にあったし、SEMATECHが組織されたときにも、その参加企業は日本企業との競争に危機感を持ち、機会主義的な態度をとるどころではなかったのではないかと言う訳です。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

トップページに戻る

  • RADIKO.JP
  • ビビックスマホ