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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > モノのインターネット (産業政策、通信政策、通信経済学/実積寿也)

モノのインターネット

実積寿也 産業政策、通信政策、通信経済学

15/01/15

昨日は、グーグルグラスに代表されるウェアラブルデバイスは非常に有用ではあるけれど、世の中の人全員が装着するようなことにはならないだろうというお話をしました。しかしながら、ウェアラブルデバイスの本質は、私達の身の回りの情報をきめ細かにモニターして高度な意思決定を可能にすることなので、モニターのためのデバイス自体は別にウェアラブルである必要はないかもしれません。

例えば、赤ちゃんの健康状況をモニターするスマート靴下というデバイスをご紹介しました。でも、仮に赤ちゃんのいる部屋や、寝かされているベビーベッド、あるいは手に持って遊んでいる玩具にセンサーが埋め込まれていれば同じ機能が実現できる可能性があります。例えば、体温は赤外線モニター付きのビデオカメラを天井につけておけば計測できますし、心拍数だってハイビジョンカメラの焦点を赤ちゃんのこめかみに合わせておけばモニターできるはずです。

つまり、人間の体にデバイスをつけなくとも、人間が生活している環境に計測デバイスを数多く設置しておけば、十分だということです。もちろん、少し前まで、こういったやり方は、情報収集の観点からすれば非常にコストがかかる方法でした。例えば2000年代には個々のデバイスをネットワークにつなぐ通信モジュールの価格がひとつ数万円であったため、なんでもかんでもインターネットにつなぎこむという方法はビジネスとして全く成立しない世界でした。でも、コンピュータをはじめとする情報通信技術の進歩はいわゆるムーアの法則に支配されています。ムーアの法則によれば、コンピュータの能力は価格対性能比で1年半毎に2倍になります。簡単に言えば、同じ能力のデバイスであれば、1年半で価格が半分になるということです。そのため、数多くのモニタリングデバイスを大量に設置して必要な情報を得るという方法が、最近では現実の選択肢となっています。さらに、ブロードバンドインターネット、特に無線ブロードバンドの発達により、大量に設置したモニターをネットワークに接続し、遠隔監視を行うことが低コストで可能になりました。

これは、これまで人間とコンピュータ、あるいは人間と人間をつなぐために発達してきたインターネットが、モノとモノをつなぐ方向に展開しつつあることを意味します。つまり、「モノのインターネット」、Internet of Thingsです。略称好きなネット業界の常としてIoTと呼ばれます。

実は、モノのインターネットはウェアラブルデバイスの普及など及びもつかない速度で普及が進んでいます。通信機器製造業界最大手のCisco社の推計によれば、2008年の段階で、インターネットに接続されたデバイスの数は世界の人口を超えており、今日では世界人口の約3倍の機器がインターネットに接続して日々活用されています。例えば、街中に設置台数が増えてきている監視カメラの58%はインターネットに接続していますし、電子レンジや冷蔵庫といった家電製品も23%がネットに繋がっていると推測されています。この傾向は今後も継続し、東京オリンピックが開かれる2020年には世界人口を遥かに超える500億ものデバイスがインターネットに接続している状況が予想されています。

インターネットに繋がる個々のデバイスには小さなコンピュータが搭載されています。その意味からすれば、モノのインターネットの普及とは、私達が身の回りに存在する多数のコンピュータを駆使して生活を豊かにすることができるようになったことを意味します。
一つ一つのデバイスが収集する情報はたいしたものではありませんが、無数のデバイスが協働して24時間体制で収集する量は最終的にはとてつもない量のデータ、つまりビッグデータと言われるものになります。一つ一つのデバイスが集めたデータを、インターネットを介して巨大なデータセンターに集め、高性能なマシンで解析処理することで日常生活や企業活動に役立てていくわけです。

例えば、商用エンジンや発電設備などをグローバルに製造し、メンテナンスサービスとともに供給している米国ゼネラル・エレクトリック社では、現在、21,500両に及ぶ列車にセンサーを埋め込み、機器の不具合を事前に察知し、故障が実際に発生する前に部品の交換を行うことで、列車の運行の乱れを最小限に抑え、全体的なコストを最小化する試みを行っています。日本でも、これと同様の形態で農業の分野で経営をサポートするサービスが、農業機械の製造で有名なヤンマー社がスマートアシストというブランド名で提供されています。また、サンフランシスコでは、2010年にSFParkというパイロットプロジェクトを行いました。そのプロジェクトは、駐車場や道路脇に設置したセンターやそれぞれの車に搭載してあるセン
サーで集めた情報を利用して、目的地に程近い駐車スペースまで最短時間で案内することで、目的地には着いたものの駐車ペースを探してウロウロ彷徨うといった事態を防止し、さらには駐車場の入庫待ち行列を短くすることで不要な渋滞の発生自体を防止するというものです。今年の4月にその評価が発表されたのですが、当初の目的が達成されたうえ、駐車違反の減少や、混雑解消の結果アクセスが容易になり商業施設に活気がもたらされる、といった副次的な効果が認められています。

モノのインターネットは大きな経済効果の源にもなります。IT専門の調査会社であるIDC Japanは、関連するデバイスやサービスの国内売上げは、2013年実績で10兆円程度だったものが、2018年にはほぼ倍増の21兆円に達すると予測されています。年平均成長率13.7%は驚異的な数値です。のみならず、モノのインターネットを活用することで新サービスや新商品が生まれたり、あるいは既存ビジネスにおいても生産性が改善したりすることで、大きな経済効果が生まれることも期待できます。

ただし、注意しなくてはならないのは「新しい酒は新しい革袋に盛れ」という考え方です。モノのインターネットによって可能となるより効率的な意思決定を、製品やサービスの開発や既存ビジネスに活かしていくためには、これまで培ってきたビジネスモデルや働き方、ものの考え方を一旦リセットする覚悟が必要だということです。このことは、従来慣れ親しんできた成功パターンを捨て去ることを意味しますから、経営者にとってはかなり大きな意思決定となります。

そのため、はじめのうちは「高い費用をかけてモノのインターネットを導入したものの、思うような効果が生まれない」といった事例が続出し、モノのインターネットそのものに対する失望感が生まれることも予想されます。しかし、そのうちモノのインターネットに最適なビジネスモデルを持った新興企業が現れ、市場が一変し、大きな経済効果が生まれてきます。かつてコンピュータ産業を牛耳っていたIBMの牙城を崩したマイクロソフト、さらにその業界支配を覆したグーグル、果てはそこから飛び出すことに成功しつつあるフェイスブックも全く同じ文脈から生まれた企業です。個人的には、モノのインターネットが生み出した新しい情報環境に適合した企業が福岡の地から生まれて欲しいと思っています。

今日のまとめ:あらゆるデバイスがインターネットに繋がるという「モノのインターネット」は我々が気づかないうちに急速に進展しつつあります。ムーアの法則に代表される情報通信技術の高度化がもたらしたこの新しい技術は、我々の日常生活や産業の活動を今よりずっと便利にかつ効率的にしてくれることが期待されています。ただし、そのためには新しい環境に即した最適なビジネスモデルを採用する必要があることを忘れてはいけません。

分野: 産業政策・通信経済学 |スピーカー: 実積寿也

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