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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 地域イノベーション・システム(その2) (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

地域イノベーション・システム(その2)

永田晃也 技術経営、科学技術政策

15/01/13

今回のまとめ:地域イノベーション政策の立案に当たっては、海外の地域システムをモデルとするのではなく、まず日本の地域システムの強みを探索することが肝要です。

 前回から地域イノベーションについてお話しています。特定の地域でイノベーションが活発に行われる仕組みを理解するために、まず特定の地域に特定の産業が集積立地する要因をみておきました。そうした産業集積はクラスターと呼ばれ、近年の日本ではクラスターを形成するための地域政策が推進されてきました。今回は、そのような地域政策の課題について考えてみたいと思います。

 日本の全国総合国土開発計画の中では、「地域間の均衡ある発展」、「東京一極集中の是正」、「多極分散型国土形成」といったスローガンが掲げられてきました。1980年に入ると、こうした地域政策と科学技術政策が結合し、83年に制定された「テクノポリス法」や、88年に制定された「頭脳立地法」によって、研究開発機能の地域展開が図られていきました。これによって、全国に学術研究都市とか、サイエンス・パーク、あるいはリサーチ・パークと呼ばれるエリアが造成されたわけです。
 こうした政策の効果は多元的ですから、単純な見方で評価することはできませんが、研究開発機能の分散立地という側面について言えば、期待したほどの効果は得られなかったようです。いかに高度化した情報技術やインターネットの普及によって情報伝達が容易になったと言っても、近接立地することから得られる情報伝達の利点に完全に代替することはできず、この利点においては既に首都圏が圧倒的な優位性を持っているため、首都圏と他地域の情報格差を簡単に解消することはできなかったのだと思われます。まして研究開発活動にとって情報格差は致命的な問題となるので、地方分散を政策的に誘導することは困難であり、また望ましいとも限らないのです。
 そこで、単なる地方分散ではなく、地域にユニークな集積を形成していくという方向に政策の転換が図られました。クラスター政策が登場した背景は、このように理解されます。

 クラスターを形成する地域政策は、2001年に開始された経済産業省の産業クラスター政策と、2002年に開始された文部科学省の知的クラスター創成事業によって進められました。それぞれに関する詳しい説明は省きますが、これらの政策に共通する指向性は、政策手段である大学や公的研究機関を核としてイノベーションを推進しようとした点に見られます。
 しかし、クラスター事業は、いわゆる事業仕分けの対象となり、2011年に「地域イノベーション戦略推進地域」に一元化されました。
 無論、事業仕分けの対象になったからと言って、それだけでクラスター事業に対する政策評価を確定してよい筈はありません。私は、画期的な開発成果を挙げたプロジェクトや、事業化にまで成果を結びつけたプロジェクトもあったと思います。他方において、多くのプロジェクトが、イノベーションの母胎となる産業集積を人工的に作り出す上での困難に直面したことも事実です。こうした地域イノベーション政策には、どのような限界があったのでしょうか。

 クラスター政策が推進される過程では、しばしばクラスターの概念の説明に際して、ポーターのフレームワークが引用されました。しかし、皮肉なことに、ポーターのフレームワークでは、政策の役割は産業競争力の決定要因として位置づけられていないのです。
 また、目標となるハイテク産業クラスターのモデルとしては、しばしばシリコンバレーが持ち出されました。しかし、これも皮肉なことに、シリコンバレーという地域の形成には、ほとんど政策が積極的な関与を行っていないのです。
 よく知られているように、シリコンバレーというのは、米国カリフォルニア州南東部の、スタンフォード大学を中心とする地域で、1970年代の初め、ここに多数の半導体メーカーが集積したことから、この名称で呼ばれるようになったものです。今日でもヒューレット・パッカード、アップル、インテル、Google、Yahoo!、Facebookなど、多くの企業が立地していますし、新たなベンチャー企業が活発に創業される地域です。
 アナリー・サクセニアンという研究者は、1994年に刊行された文献の中で、シリコンバレーと、同じくハイテク産業集積地域として知られながら起業活動が衰退していった東海岸側のルート128号線周辺地域を比較しています。その上で、サクセニアンはシリコンバレーの地域的な優位性を、専門化した企業間のネットワークによって分業や情報共有が進んでいることや、人材の流動性が高い点などに見出しています。
 例えば、ここで指摘されている人材の流動性の高さという要因は、企業の雇用慣行という制度的要因や、ワーク・モチベーションという社会心理的要因とも深く関連しており、政策的な介入によって容易にコントロールできるものではありません。
 また、シリコンバレーにスタンフォード大学があるように、ルート128号線周辺地域にもMITという卓越した研究大学があるのですが、後者の衰退は、卓越した研究大学の存在だけで地域的なイノベーションが活発になるわけではないことを示しています。この事実は、大学を政策手段の核とするアプローチの限界を示すものでもあります。もっとも残念ながら日本では、そもそもスタンフォードやMITのような卓越した大学の存在自体が限られているのですが。
 では、どうすれば良いのか。この質問に応えることは簡単ではありませんが、ただ、海外の地域システムをそのまま規範的なモデルとして持ち込むのではなく、まず日本の地域システムが、どのようなアクターや制度の相互関係の上に成り立っているのかを明らかにし、その中にイノベーションを創出する上での強みを探索し、それを生かす方向に、いま一度政策を転換する必要があるということだけは確からしく思われます。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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