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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 地域イノベーション・システム(その1) (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

地域イノベーション・システム(その1)

永田晃也 技術経営、科学技術政策

15/01/12

今回のまとめ:地域に産業が集積立地する要因としては、ネットワークの外部性がもたらす利点と、特殊技能労働市場の形成がもたらす利点の双方が重要です。

 今回から2回に分けて、地域レベルのイノベーション・システムの捉え方についてお話してみたいと思います。これまで欧州、東アジアという、国を超えた広域的なシステムについて取り上げる機会がありましたが、これから見ていく地域とは、空間的なスケールでは国より限定的な地域、例えば北部九州地域などという言う場合の地域を意味しています。つまり、ナショナル・イノベーション・システムのサブ・システムとして位置付けられる地域イノベーション・システムについて考えてみようというわけです。
 何故、この論点が問題になるのかと言えば、イノベーションが活発に行われる特定の地域は現に存在するからです。そう言うと、おそらく皆さんはシリコンバレーのような地域を想起されると思いますが、まさにそのような地域の特性を解明するために多くの研究が行われてきました。

 シリコンバレーは、ベンチャー・ビジネスが盛んに創業し、ハイテク産業が集積している地域として有名ですが、特定の産業が特定の地域に集積立地する傾向は、伝統的な産業に多くの事例を見出すことができます。ポール・クルーグマンという経済学者は、米国の例として、ジョージア州のカーペット産業、ロードアイランド州の貴金属産業、マサチューセッツ州の靴産業などを挙げています。日本についても、例えば新潟県燕市の銀食器メーカーの集積などを挙げることができるでしょう。
 このように産業集積が何故起こるのかという問題は、古くから経済学者たちの関心を捉えてきました。アルフレッド・マーシャルという経済学者は、1920年に刊行された文献の中で、ある産業が特定地域に集積立地する要因について議論しています。マーシャルは、その要因として、当該の産業が必要とする特殊技能の労働市場や、中間投入財の市場が形成されることにより、それらの調達が容易になることに加え、企業間の情報伝達が効率的になり、技術の普及による利点が発生するという点を挙げています。この最後に挙げられた利点は、後に「ネットワーク外部性」という概念で説明されることになりました。ネットワーク外部性とは、ある製品やサービスの価値が、その利用者の増加によって拡大する現象を意味しています。例えば、電話のようなネットワークによって提供されるサービスでは、加入者が2人であれば情報伝達のパスは1本しか引けませんが、3人になると3本、4人になると6本と増えていき、加入することによって得られる価値が大きくなります。このような状況に似て、互いの情報伝達によって利益を得る企業が近接立地することによって情報伝達が容易になると、特定地域に集積することに伴う利益が拡大し、益々、企業が集まってくるというわけです。
 このような情報伝達がもたらすメリットは、特に先端的な技術情報を求める企業にとって重要な意味を持つと考えられるため、ハイテク産業集積の主要な要因と見なされてきました。
 ただ、この点については、前述のクルーグマンが1996年に発表した論文の中で批判的な検討を加えています。彼は、地域集積がハイテク産業より伝統的な産業に顕著にみられることを反証として、特殊技能労働市場の形成をより重要な要因として位置付け、さらにハイテク産業にとっても特殊技能労働者の雇用が重要であることを指摘しました。
 しかし、どちらの要因がより重要かという議論には、あまり意味があると思えません。知識には、科学の公式や特許明細のように言語化された「形式知」と、熟練技能のように言語化することが困難な「暗黙知」という2つのタイプがあると言われます。このうちネットワーク外部性がもたらす利点は主として形式知の伝達に現れ、他方、情報ネットワークでは伝達できない暗黙知を活用する上では、そのような暗黙知すなわち特殊技能にアクセスできる労働市場の形成がもたらす利点が重要になると言えるでしょう。そして、ハイテク産業であれ、伝統産業であれ、イノベーションを実現するためには、どちらのタイプの知識も重要なのです。

 さて、「地域イノベーション・システム」という概念に話を戻しますが、この概念を重視する研究者は、これまでお話してきた「ナショナル・イノベーション・システム」の内部が、地理的に同質的である筈がないという点に注目してきました。しかし、その論理構成は、概ねナショナル・イノベーション・システムと同型的で、その空間的スケールを縮小した議論として捉えることができます。特定の地域の中でも、イノベーションの主要な担い手である産業部門が、大学等の学術機関及び行政機関と相互作用しながら、ともに進化しているというわけです。近年、そのような関係を「三重らせん(トリプル・へリックス)構造」としてモデル化する試みも行われています。

 この他、地域イノベーション・システムのモデルとして捉えられるフレームワークがいくつか提唱されていますが、前回取り上げたマイケル・ポーターの「ダイヤモンド」フレームワークも、その1つです。
 このフレームワークは、もともと国の産業競争力の決定要因を説明するために提起されたものですが、後にポーター自身が、「ある特定の分野に属し、相互に関連した企業と諸機関からなる、地理的に近接した集団」のモデルとして再定義し、そのような地域的な集団を「クラスター」と呼んでいます。
 この「クラスター」という概念は、近年の地域科学技術政策の中でも頻りに使われることになったものです。次回は、地域イノベーション・システムを形成するための政策について論じてみたいと思います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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