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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 新興国の成長メカニズム (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

新興国の成長メカニズム

永田晃也 技術経営、科学技術政策

14/11/20

今回のまとめ:新興国のイノベーション・システムは、しばしば国際技術移転を重要な契機として形成されています。

これまで日本、米国、欧州といった先進国・地域のイノベーション・システムをみてきました。今回は新興国に目を転じてみたいと思います。ただ、一口に新興国といっても、イノベーションを独自に創出することができている国ばかりではなく、その意味で固有のイノベーション・システムが成立しているとは限りません。今回の焦点は、新興国のイノベーション・システムを既に成立しているものとみるのではなく、それが形成されていくプロセスをみることにあります。

 一国の産業の発展には、「プロダクト・ライフサイクル」と呼ばれるパターンが見出されてきました。これは、ある新製品が市場に導入されると、しばらくしてからその需要が急激に成長し、やがて需要が飽和すると市場は成熟段階を迎え、ついには他の新製品に需要が移動して、製品の寿命が終わりを迎えるというものです。このパターンは、横軸に時間、縦軸に需要量を測ると、S字型のカーブ、成長曲線を描くことになります。
 新製品が最初に開発、導入されるのは、一般的に所得水準の高い先進国です。やがて相対的に所得水準の低い国にも、その製品に対する需要が生まれるようになると、当初は先進国からの輸入によって賄われます。しかし、需要量が拡大すると、低所得国の国内でもその製品の生産が行われるようになります。さらに、低所得国での生産効率が高くなると、その低所得国から他の低所得国や、最初に新製品を導入した高所得国への輸出が行われるようになります。
 このようにして、ある産業の一国における発展は、輸入、国内生産、輸出の順に、それぞれ活発になる時期が間隔をおいて訪れるという様子を示します。この三つの山が時間のズレをおいて描かれる様子から、このような発展のパターンは「雁行形態的発展」と呼ばれています。私たちの記憶にある事例として、テレビ、半導体、パソコン、携帯電話などが、このような発展のパターンを辿ったことを想起できるのではないでしょうか。

 さて、このような発展パターンにみられるように、ある産業の生産活動の中心が国の間を移動するという現象をもたらしているのは、関連する技術が、先進国、高所得国から、開発途上国、低所得国に移転されるということ、すなわち国際的な技術移転です。この国際技術移転は、先進国からの生産設備等の輸入、特許等の国際ライセンス契約や途上国への直接投資の他、刊行物の普及、技術者の移動などを通じて遂行されます。
 この国際技術移転は、1960年代の末頃から、南北間の所得格差を解消する効果を持つものとして、国連関係機関、世界銀行、OECDなどによって注目されはじめました。しかし、こうした国際機関は、技術移転の政策的な重要性に注目する一方で、技術移転に伴う様々な困難も明らかにしてきました。
 まず、そもそも技術の送り手となる先進国側の企業は、将来の競合企業を育ててしまうかも知れないため、技術移転を進んで行おうとするわけではありません。技術移転が政策主導で行われる場合でも、移転される技術の選択には、そのような民間企業の意思が反映されやすいので、結果的に途上国の望む技術は移転され難いということになります。
 技術移転を阻む要因は、途上国側にもあります。まず、そもそも当該産業の製品に対する需要量が不十分であれば、関連する技術は受け手となる企業で活用されず、定着もしません。また、受け手側において製品事業を展開するために必要な資金、経営能力、熟練労働力などが不足していることが阻害要因として指摘されてきました。この点に関連して、国連が1988年に公表したレポートでは、技術移転は、生産技術や製品技術に関する知識、ノウハウの移転だけで完結するのではなく、人的資源管理、財務、マーケティングなどの経営に関する知識や、品質管理のノウハウなどが一体となったパッケージによって成立するということに注意を喚起しています。
 また、仮に技術移転を阻害する要因が問題にならない場合でも、技術移転が受け手側の国において社会的・文化的風土や自然環境を破壊するといった負の影響を持つ可能性があることには注意が必要です。土着の伝統的な技術との融合を図る必要も生じます。こうした点を考慮した上で、移転が望まれる技術を意味するものとして「適性技術」や「中間技術」といったコンセプトが提起されるようになりました。

 さて、以上のような議論を踏まえて、1980年代以降、注目されてきた東アジアの成長をみてみましょう。
 かつて1980年代に急成長を遂げた香港、韓国、シンガポール、台湾といった新興国・地域はNIEsと呼ばれていました。当時のNIEsの成長メカニズムは、先進国企業の海外直接投資(FDI)などを通じて技術やノウハウの移転を受け、次第に先進国や途上国への輸出品目を形成するというものでした。この過程で、前述したテレビ、半導体、パソコンなどがNIEsの輸出品目になったわけです。
 NIEsの中でも特に韓国と台湾は、日本企業の技術に対する依存度が高いと言われていましたが、これらにおいては自国の産業を保護するため、FDIに対する規制も強化されるようになりました。
 自国の産業を保護するための政策として、しばしばFDIに対するローカルコンテンツ要求、つまり進出企業に国内産品の購入を要求する一方、輸入を制限して国内産品に代替していくという措置がとられます。しかし、このような規制をかけると、要求水準の高い先進国市場向けの生産を行う企業の進出が阻まれるため、高度の技術が移転されず、国内企業の技術力も向上しなくなります。このため1990年代には多くの国でFDIに対する自由化政策が進展しました。その一方で、保護主義的な政策を継続し、FDIを経由する以外の方法で先進国企業の技術を吸収した国もあったわけです。

 さて、NIEsの急激な成長は、1993年に発表された世界銀行のレポートの中では政府の政策選択がもたらした「奇跡」と評されましたが、ポール・クルーグマンという経済学者は、NIEsの成長は技術進歩を伴っていないので、奇跡というのは根拠のない作り話だと批判しました。しかし、単なる作り話でないことは、その後の歴史が証明したといって良いと思います。NIEsの中には、その後、明らかに技術進歩を主な成長要因とした国も存在します。ただ、それを可能したものは、未発達な市場メカニズムを補完した政府の政策だけではないでしょう。急成長を遂げた東アジア諸国で形成されてきたイノベーション・システムの特徴は、それぞれの国における政策の役割を企業や高等教育機関との関連において把握することで、はじめて包括的に記述できると思います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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