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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > イノベーション・システム(9) イノベーション・システムの日米比較 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

イノベーション・システム(9) イノベーション・システムの日米比較

永田晃也 技術経営、科学技術政策

14/10/29

 最近4回の放送では、日本と米国のナショナル・イノベーション・システムの特徴と、それらの特徴がどのように歴史的に形成されてきたのかを概観してきました。今回は、こうした国際比較を踏まえて、イノベーション・システムという制度の捉え方をまとめてみたいと思います。

 日本と米国のイノベーション・システムの間には、様々な相違点が見出されました。
 例えば、イノベーションの主な担い手である企業をみると、90年代半ば頃までの日本については系列やメインバンク制といった企業間関係がイノベーション・プロセスに果たしてきた役割が注目され、また終身雇用や年功制といった雇用慣行が、企業内部で部門横断的な知識の共有を可能にしてきたことが、イノベーションの導入に有利に作用した点が強調されました。一方、米国のイノベーション・システムにおける企業としては、特にベンチャー・ビジネスが活発であることが注目され、その要因として日本とは対照的に労働市場の流動性が高いことなどに加え、反トラスト法による独占の規制と、特許制度による発明の保護がともに強力であることが挙げられました。
 また、大学の役割をみると、日本については理学・工学分野での全般的な教育水準の高さが特徴とされる一方、研究面での貢献が言及されることは少ないのですが、米国については世界的にトップレベルの研究活動を行っている大学が数多く存在し、それらが産業部門と活発に連携していることが重視されてきました。
 さらに政府の役割をみると、日本については戦後、高度成長期までの外国技術導入や、その後の共同研究開発において政府が主導的な役割を果たしてきたが認められました。ただ、こうした産業全体の技術水準を高める調整的な機能が評価される一方、研究開発費総額に占める政府の負担割合は他の先進諸国に比して低いということが指摘されてきました。この点、対照的に米国では研究開発費総額に占める連邦政府の負担割合が大きく、特に先端的な技術分野の研究開発プロジェクトにおいて連邦政府が重要な役割を果たしてきたことが注目されています。

 さて、このように日米のナショナル・イノベーション・システムの間には、いくつかの対照的な特徴と言うべき相違点が見出されます。しかし、その制度的な成り立ちを振り返ってみると、むしろ重要な共通点に気付かされます。

 第1に、各国のイノベーション・システムを特徴づけている諸制度は、それぞれの近代国家としての形成過程と密接に関連しているということです。日本のシステムにみられた特徴的な企業間関係や雇用慣行、そして産業部門に介入する政府の調整的な機能は、いずれも急速な近代化の過程で形成されてきたものでした。また、米国のシステムを特徴づける特許制度は合衆国憲法に根拠を持ち、反トラスト法は南北戦争後の混乱を収拾する過程で成立した制度でした。連邦政府が大学に巨額のグラントを提供するようになったのは第二次大戦後ですが、この仕組みは、そもそも高等教育に関する権限が連邦政府に配置されていないことに起因するものでした。
 このように初期時点の制度配置が、その後のシステムの進化に影響を及ぼす状態は、歴史的な経路依存性(path-dependency)と呼ばれています。

 第2に、各国のイノベーション・システムを構成している諸制度は、相互補完関係を持っているという点です。例えば、日本では技術研究組合による共同研究開発が重要な役割を果たしてきたと言われるのは、米国のように世界トップレベルの研究活動を行う大学が国内に数多く存在する状態ではないため、技術研究組合によって基礎研究機能を補完するという側面があったからです。米国でも1980年代には共同研究開発に対する反トラスト法の規制が緩和され、SEMATECHという半導体製造技術のコンソーシアムなどが設立されたのですが、競合企業間の共同研究はあまり実施されませんでした。それは世界トップレベルの研究大学をパートナーに選べるので企業間で共同研究を行う必要がないという理由に加え、規制が緩和されたとは言っても、万一、反トラスト法違反に問われて敗訴すると巨額の賠償金を支払うことになる虞があるため、米国のような流動性の高い環境では、競合企業に求める知的資産がある場合には、むしろ合併や人材のヘッドハンティングが選ばれてきたからだという見方があります。
 このように各国において固有の進化を遂げてきたイノベーション・システムを構成する諸制度は、相互に密接な補完関係を持ち、全体としては一貫性のある安定した状態、均衡状態にあると見ることができます。また、このような均衡状態は、特定の国の制度配置にだけ見られるのではありません。言い換えれば、特定の国のシステムにスタンダードと呼ばれる最適解が見出されるのではなく、均衡状態は多様であり、複数存在するわけです。

 今回の解説では、歴史的経路依存性、制度間の補完性、複数均衡など、耳慣れない用語を援用してきました。これらの用語は、スタンフォード大学の青木昌彦教授らによって提唱された比較制度分析の中で用いられてきたものです。ナショナル・イノベーション・システムの研究と比較制度分析の間には、直接的な接点はないのですが、両者の間では制度の捉え方において多くの問題意識が共有されているようです。イノベーション・システムの研究領域で発見された知見の多くは、比較制度分析の方法的視点に立って理論的に基礎づけることができると私は思います。

今回のまとめ:ナショナル・イノベーション・システムには本来、多様な均衡状態が存在し、いずれか一国のシステムがスタンダードと呼ばれる最適解を提供するわけではありません。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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