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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > イノベーション・システム(10) 欧州のイノベーション・システム (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

イノベーション・システム(10) 欧州のイノベーション・システム

永田晃也 技術経営、科学技術政策

14/10/30

 前回は、日本と米国のナショナル・イノベーション・システムを比較し、ナショナル・イノベーション・システムというものには本来、多様性があり、いずれか一国のシステムがスタンダードと呼ばれる最適な状態にあるわけではないという話しをしました。今回は、それぞれユニークなイノベーション・システムを持つ複数の国が、協力してイノベーションに取り組もうとする場合、どのような課題に直面することになるのかを考えてみたいと思います。ここで取り上げるのは、EU(欧州連合)の挑戦です。

 EUには現在、28カ国が加盟しており、加盟国はそれぞれ固有の歴史的、文化的な背景を持っています。その中には、イタリア、英国、ドイツのように、かつて科学技術の活動において世界の中心となった歴史を持つ国もあるのですが、今日、一国の活動水準では米国に遠くおよばず、分野によっては日本にも遅れをとる状態になっているわけです。
 もとよりイノベーション・システムは国ごとに多様で、行政システムに限ってみても、例えば英国は4つの国からなる連合王国で、科学技術政策全般については単一主権国家である連合王国の任務とされる一方、高等教育政策は各国の任務とされているのに対し、連邦制をとるドイツでは連邦政府と州政府が高等教育機関と公的研究機関への資金提供を共同で行うという二元構造になっており、また他方にはフランスのように科学技術政策も高等教育政策も中央集権的な行政機関に担われている国が存在するといった具合です。
 前に、科学技術政策のタイプには先端技術の研究開発を重視するミッション・オリエンテッド型と、技術の普及を重視するディフュージョン・オリエンテッド型があるという話しをしましたが、この分類にしたがうと、一般的に英国やフランスはミッション・オリエンテッド型、ドイツやスウェーデンはディフュージョン・オリエンテッド型と見られています。

 さて、こうした多様な国が加盟しているEUですが、その思想的な起源は第二次世界大戦中に遡るものの、組織的な実体は大戦後に発足した複数の共同体が元になっています。まず1952年に、独仏の不戦を目的として、戦争に不可欠な石炭と鉄鋼を共同管理するための「欧州石炭鉄鋼共同体」(ECSC)が発足しました。1958年にはローマ条約に基づいて、「欧州経済共同体」(EEC)と、「欧州原子力共同体」(EURATOM)が発足しました。1967年には、これらが統合されて「欧州共同体」(EC)となり、1986年には単一欧州議定書が採択されて、92年末までに域内取引の障壁を撤廃することが決まりました。そして1993年にはマーストリヒト条約が発効し、ECと共通安全保障政策および司法・内務協力を総称するものとしてEUが発足するに至ったわけです。
 EUは、加盟国が主権の一部を移譲することによって成立した超国家的な機構で、その組織にも三権分立の体制がとられています。すなわち、欧州理事会と閣僚理事会が立法機関、欧州委員会が行政機関、欧州裁判所が司法機関です。
 行政機関である欧州委員会は、国の省庁に相当する総局と呼ばれる組織に分かれており、その中に科学技術政策を担当する「研究・イノベーション総局」が置かれています。

 EUの科学技術政策における特徴的な取組として、「フレームワーク計画」と呼ばれる研究助成制度があります。第1次フレームワーク計画は、EUが発足する以前の1984年から87年にかけてECのプログラムとして実施されたものですが、統合化の動きと並行して1987年から91年に実施された第2次計画以後、本格化することになります。
 フレームワーク計画は、EUの産業競争力強化を目的とする総合計画で、その傘下で個別プログラムが実施されました。予算の半分はEUの一般会計から支出され、半分は各国からの拠出金によって賄われました。
 具体的にどのようなテーマを実施するかは、リーゼンフーバー基準と呼ばれる原則に従って決められました。この基準は、原則として民間で行えるものは公共部門では行わない、国家レベルで行えるものはECレベルでは扱わないといったルールを定めています。また、統一標準規格を確立するための研究や、域内の流動性を高める効果を持つ研究が推進されることになりました。

 フレームワーク計画の下で実施された初期の代表的な共同研究開発プロジェクトとして、エスプリ(ESPRIT)という情報技術関連のプロジェクトが挙げられます。これは1984年に発足していますが、536の参加団体と3000名もの常勤研究者を擁し、75の個別プロジェクトが製品やサービスを市場化することに成功したと報告されています。また、このプロジェクトにより、域内の企業間での共同事業が増加したと評価されています。

 フレームワーク計画は、2007年から2013年までを計画期間とする第7次計画(FP7)で終了しました。FP7の予算は505億ユーロに上るものでしたが、これによって巨大研究施設の設置や、研究者の流動性が促進されたことを、欧州委員会は評価しています。

 フレームワーク計画は確かに一定の成果をあげたようですが、いくつかの課題も指摘されています。
 EU加盟国の中には、先端的な技術開発に対応できる研究能力を持った大企業が存在しない国もあり、それらの国ではフレームワーク計画のプロジェクトが自国の中小企業に利益をもたらさないことへの反発が生じたということです。
 また、フレームワーク計画の中では、研究者が他国の研究者と共同研究することが条件とされているのですが、例えばフランスの研究者の成果にはフランス語が通用するポルトガルやベルギーの研究者との共著論文が多いことなどから、依然として言語障壁が域内の協力関係を制約していることを指摘した論文もあります。

 ただ、こうした課題が明らかになったことも含めて、EUの挑戦は、イノベーションをめぐる国際協力のあり方について貴重な知見を与えるものだと言えるでしょう。現在、EUではフレームワーク計画の後継プログラムとして「ホライズン2020」という実施されており、今後の動向が注目されるところです。

今回のまとめ:EUによるフレームワーク計画の実践は、イノベーション・システムが異なる多くの国が協力してイノベーションに取り組む際の課題について、重要な知見を提供しています。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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