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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 日本のイノベーション・システム (その1) (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

日本のイノベーション・システム (その1)

永田晃也 技術経営、科学技術政策

14/08/28

 イノベーションを生み出す一国の制度的な仕組みは、「ナショナル・イノベーション・システム」と呼ばれ、各国のシステムに関する比較研究が進められてきたというお話をしてきました。これから、いくつかの国のイノベーション・システムの特徴を概観してみたいと思います。まず今回から2回に亘って、日本のイノベーション・システムを取り上げます。

 ナショナル・イノベーション・システムは、企業、大学、政府といったアクターが、それぞれの役割を果たしながら、イノベーションをめぐる相互作用を行う場として捉えることができます。そこで、一国のシステムの特徴は、これらアクターの役割や、相互作用にみられる特徴として記述されます。
 前に、ナショナル・イノベーション・システムの概念を提唱した研究者のひとりであるクリストファー・フリーマンは、まず日本のイノベーション・システムを理解するために、この概念を適用したという話をしました。フリーマンは、1987年に刊行された著書の中で、第二次世界大戦後における日本のシステムの特徴を4点に亘って指摘しています。
 第1に政府の役割に関する特徴ですが、通産省(現在の経産省)が、一貫して技術の発展を刺激するための長期的な戦略目標を追求してきたという点です。
 第2に、企業の役割については、日本の企業が技術導入やリバース・エンジニアリング(他社製品を分析することにより、そこで使用されている技術を探索する方法)などを通じて、先進的な技術の吸収に積極的に取り組んできたことなどが指摘されています。
 第3に、理学・工学分野における教育水準が高く、これら分野の学生数が早い時期に欧州諸国を上回ったということを、日本の大学の役割にみられる特徴として挙げています。なお、これに関連して国民の間に大きな所得格差がないことなどにも言及しています。
 第4に、これは産業組織に関する指摘ですが、系列のような重層的な下請け構造を持つ企業間関係などが、長期的な視点に立って研究開発や設備投資を促進し、技術変化を刺激することを可能にしてきたという点が挙げられています。

 フリーマンが通産省の役割を筆頭に挙げている点にも端的に窺えるのですが、欧米の研究者は、戦後日本がイノベーションによって経済成長を達成したプロセスを論ずる際、政府の主導的な役割を重視する傾向があります。
 これに対して日本のイノベーション研究者は、日本の研究補助金や税制上の優遇措置、あるいは政府調達などが欧米に比して特別大規模に展開されてきたわけではないという点に注意を促し、むしろ日本企業の組織内部に、イノベーションにおける優位性を理解する上で重要な特徴を見出してきました。
 日本のイノベーション研究で草分け的な仕事をされた小田切宏之、後藤晃という二人の先生は、1993年に発表された論文の中で、日本企業の技術力の源泉を4点に亘って挙げています。
 第1に、日本企業は株主に干渉されることが少ないことから、長期的な成長を目標として、研究開発や設備投資に関する意思決定を行うことができたという点です。この点は、関連企業間での株式の持ち合いや、特定の銀行との間で長期的、安定的な取引関係を形成する「メインバンク制」の採用が広く行われてきたことと関連しています。
 第2に、多くの経営者が生産・技術部門と営業部門での職務経験を持っており、イノベーションの源泉である技術シーズと市場ニーズの双方に精通していたという点です。
 第3に、このような経営者が輩出されてきた背景でもありますが、日本企業では長期勤続と、これを前提とした組織的な訓練計画やジョブローテーションによって、研究開発部門と他部門との間に効果的な連携関係がもたれてきたという点です。
 第4に、この結果として、研究開発部門と生産部門の間で緊密なコミュニケーションが行われるようになり、それが新製品や新工程の導入を促してきたという点です。

 さて、このように日本のイノベーション・システムの特徴を記述した初期の論文が、90年代はじめまでに書かれたものであることに注意してください。その当時、日本のシステムには、イノベーションを創出する上で優位性があると一般にみられていました。しかし、丁度その頃から日本経済は長期的な不況に見舞われることになり、その過程で日本の特徴とみられていた点も、大きく変貌することになりました。
 かつて長期的な成長を目的として、研究開発や設備投資に一貫した意思決定ができる組織とみられた日本企業ですが、近年の実証研究の結果は、いわゆる失われた20年の間に、日本企業が短期的な景気変動に対して過剰に反応し、研究開発や設備投資を削減してきたことを明らかにしています。この間、しばしばメインバンク制の欠陥が指摘されるようになり、長期勤続を支えてきた終身雇用制や年功制などの雇用慣行も揺らいできました。
 日本のイノベーション・システムは現在、新たな均衡状態を模索している過渡期にあるとみられます。この先、どのようにシステムが進化していくことになるのかを見定めるため、次回は日本のシステムが形成されてきた歴史的な経緯を振り返ってみたいと思います。


今回のまとめ:かつてイノベーションを創出する上での優位性があるとみられてきた日本のシステムの特徴は、90年代以降大きく変貌しつつあります。


分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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