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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 知的財産権(14)「経済連携協定の知財交渉項目(その2)」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

知的財産権(14)「経済連携協定の知財交渉項目(その2)」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

14/04/16

 知財をめぐる最近のトピックとして、前回からTPP(環太平洋経済連携協定)では、どのような知財関連項目が交渉されているのかについてお話しています。
 前回は、知財の国際消尽、医薬品データの保護期間などを取り上げ、社会的なインパクトの次元が異なる多様な交渉項目が挙がっていることをみました。もう少し、交渉項目の具体例をみることから、今日のお話をはじめてみたいと思います。

 著作権についても、様々な提案が俎上に上っています。
 そのひとつは、保護期間の延長で、現在のところ多くの国はベルヌ条約に基づいて、著作権は著作者の死後50年まで存続するものと規定しているのですが、これを70年とすることが米国から提案されています。
 また、著作権関係では、権利侵害の非親告罪化が交渉項目に挙がったと伝えられており、これが日本では特に注目を集めました。非親告罪化とは、被害者が告発しなくとも、公訴提起できるようにするものです。これによって海賊版などを摘発しやすくなることが期待されているのですが、一方で著作権者の意思とは無関係に二次創作物などが刑事訴追されることから、創作活動が萎縮するとの見方もあり、日本では法律家の団体やコンテンツ・クリエイターたちの間から反対意見が上がっています。

 知的財産権の保護強化を指向する交渉項目の多くについては、先進国が積極的であるのに対して途上国は消極的なのですが、逆に多くの途上国が積極的ないし容認する立場をとっている交渉項目もあります。
 それは、伝統的知識と遺伝資源の保護です。伝統的知識とは、一般的には各地の民族が培ってきた伝統的知識を意味しており、遺伝資源には、固有の生物が保有する遺伝子情報や生物多様性などが含まれます。これをTPPの知財章で規定することに対しては、米国や日本が反対していると伝えられています。
 伝統的知識に対するアクセスの公正性という項目には、近年注目されてきたイノベーションの動向との関連で興味深い論点が含まれていると思います。
 かつてイノベーションは、専ら先進国で発生し、途上国に普及していくものとみられていたのですが、この見方は1990年代の新興国の台頭を背景に次第に転換し、2000年代に入ってからは、イノベーションは途上国・新興国でも発生することが明確に認識されるようになりました。
 2012年に刊行されたゴビンダラジャンらの「リバース・イノベーション」という文献では、南アジア諸国の民間療法でコレラの治療に用いられていた飲料が、水分を素早く吸収させる「ゲータレード」というスポーツドリンクの元になったという事例が紹介されています。
 また同年に刊行されたラジュらの「ジュガード・イノベーション」という文献では、インドの村民が水を冷やしておくために粘土で造った壺を使用していたことに着想を得て、「ミティクール」という粘土性の冷蔵庫が開発され、海外でも成功を収めたという事例が紹介されています。
 これらの事例は、伝統的知識--ローカル・ナレッジに基づく途上国オリジンのイノベーションでも、グローバルな市場で競争力を持ち得るということを教えています。しかし、そのようなイノベーションの源泉となるローカル・ナレッジを先進国の企業が乱獲するようなことが起こると、結果的に途上国ばかりでなく先進国もイノベーションの機会を長期的に損なうことになると私は思います。イノベーションは、多様性の中からのみ生まれるものだからです。

 TPPに話を戻しましょう。この協定の交渉過程では、社会的なインパクトの次元が異なる多様な知財関連項目が取り上げられており、交渉項目が各国の産業に及ぼす経済的な影響も大きく異なるということをみてきました。スティグリッツという経済学者は、そもそも知的財産権は貿易協定に含めるべきではないと主張しているのですが、TPPをめぐる交渉の難航状況は、果たして協定に馴染まない項目まで取り上げてしまったことを示しているかのようです。
 詳しくお話する時間がありませんが、私はTPPの経済効果に対しては非常に懐疑的です。昨今、グローバリズムという言葉を美化する誠に根拠薄弱な議論でTPPを後押ししようとする経済学者の言説ばかりがジャーナリズムを賑わしていることを、私は危険な兆候とみています。また、米国によってTPP交渉の場に引き出されることになった日本政府の戦略不在を憂いた中野剛志さんの「TPP亡国論」を私は思慮深いものと思いますが、もしこのまま日本政府が農産品の関税について妥協せず、TPPの妥結が漂流することになるならば、日本政府もなかなか戦略的な対応ができると評価すべきかも知れません。

今回のまとめ:知財がイノベーションに及ぼす影響は国ごとに多様であり、経済協定による制度の一元化に馴染まない側面があります。


分野: 知的財産 |スピーカー: 永田晃也

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