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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 知的財産権(11)「知的財産権と産学連携(その1)」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

知的財産権(11)「知的財産権と産学連携(その1)」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

14/02/24

 
 今回は知的財産権が産学連携に果たす役割について考えてみたいと思います。

 米国では、1980年にバイ=ドール法という法律が制定されたことにより、連邦政府の資金で大学が研究した結果、得られた特許について、大学への帰属が認められることになりました。大学は、保有した特許のライセンス(実施権)を民間企業等に付与し、そのロイヤリティ(使用料)を研究費に還元させることが期待されました。その際、特許出願等の手続きや、ロイヤリティの回収などを支援する上で、重要な役割を果たすことになった組織が、TLO(Technology Licensing Organization)、すなわち技術移転機関です。

 日本では、米国に約20年遅れて「日本版バイ=ドール」と呼ばれる類似の技術移転政策が導入されるのですが、丁度その頃、米国ではイノベーションの研究者らによって、バイ=ドール法の政策効果に関する実証的な研究が盛んに行われるようになりました。そして、それらの研究の多くは、政策効果について否定的なエビデンスを示すことになりました。

 例えば、ある研究者グループは、ライセンス収入が大きいスタンフォード大学やカリフォルニア大学では、バイ=ドール法の成立前から特許取得件数が大幅に増加していたこと、またライセンス収入の大半はバイオメディカル関係を主とする上位5件の特許によるものであったことを明らかにしています。別の研究では、技術移転が効果的に行われたほとんどのケースにおいて、企業はTLOを介することなく、大学の研究成果に関する十分な情報を収集していたことが示されています。

 さらに、ヘラーとアイゼンバーグという二人の研究者が1998年に「サイエンス」に発表した論文で、重要な指摘が行われています。彼らは、バイ=ドール法の成立以後、バイオメディカルの分野では、基礎研究成果の特許による私有化が進展し、多数の権利者がバラバラに保有している特許の実施許諾を受けることに巨額のコストがかかることになった結果、発明の実用化が阻害されたとして、このような状況を「アンチコモンズの悲劇」と呼びました。

 これについては、もともと「コモンズの悲劇」として知られていた状況を、まず説明しておきたいと思います。「コモンズ」とは共有された土地のことです。そのような土地で多数の農民が牛を放牧しているとします。持続的に養える牛の数は、共有地の面積によって限りがあるわけですが、個々の農民は自分が牛の数を増やすことによって得られる利益が大きいために少しでも多くの牛を飼おうとするでしょう。その結果、際限なく牛の数が増えて共有地が荒れ果ててしまう状況が、コモンズの悲劇です。このような問題に対する解決策は、共有地を分割して、個々の農民の財産権を画定することです。つまりコモンズの悲劇とは、財産権が画定していないために資源の乱獲、過剰利用が生じることを言っているのですが、一方、ヘラーらは、知的財産の権利者が多数存在するために、それが却って利用されなくなる状況を観測したため、これをアンチコモンズの悲劇と呼んだわけです。

 このような米国での研究の結果は、大学から民間企業への特許による技術移転が、効果的な産学連携政策になっていないばかりか、イノベーションを阻害する逆効果を持つ場合もあることを示しています。

 では、日本についてはどうでしょうか。次回は、この点についてお話したいと思います。

今回のまとめは、以下の通りです。
特許を介して大学から企業への技術移転を促進しようとする政策は、「アンチコモンズの悲劇」と呼ばれる状況を発生させ、却ってイノベーションを阻害する場合もありました。

分野: 知的財産 |スピーカー: 永田晃也

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