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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 知的財産権(10)「企業の特許戦略(その4)」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

知的財産権(10)「企業の特許戦略(その4)」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

14/01/30

前回は、いかにして技術の成長段階に応じて、特許などの知的財産に関する戦略の切り換えを組織的に行うかについてお話しました。製品市場の成長段階に応じたマーケティング戦略の実践は「ライフサイクル・マネジメント」と呼ばれているため、この取り組みは知的財産のライフサイクル・マネジメントと称されることがあります。今回は、日本の医薬品産業に属する企業の取り組みに則して、知的財産のライフサイクル・マネジメントに関する説明を補足しておきたいと思います。

 はじめに、何故、医薬品産業に注目するのかですが、それは、この産業では、特許制度の二つの側面が、ともに特別な意義を持っているからです。
 特許制度の二つの側面とは、発明に一定期間の排他的な権利を設定して発明者のインセンティブを確保するという側面と、発明の内容を公開させることによって技術の普及を促すという側面だということは、前にも述べました。ところで、新薬の研究開発には巨額の費用を要するため、開発された新薬から利益を十分に回収できるかどうかが、研究開発へのインセンティブを大きく左右することになります。この利益の専有可能性を確保する上で、特許による排他的な権利は重要な鍵になります。一方、技術の普及によって、安価な医薬品が市場に投入されることは、大きな社会的利益をもたらすことになるわけです。
 医薬品産業では、この技術に関する排他的な権利と技術の普及という二つの側面が、各々、研究開発志向型の企業と、ジェネリック製品志向型の企業という異なるタイプのメーカーに対するメリットとして機能することになります。
 知的財産のライフサイクル・マネジメントは、特に研究開発志向型の製薬企業において、特許による排他的な権利を効果的に活用する戦略として採られることになります。この戦略を定義的に言えば、「探索された化合物に関する物質特許を取得するばかりでなく、これに関連する製法特許や用途特許を計画的に取得し、物質特許の権利期間が過ぎた後も、それら周辺特許で後発品を排除することによって事実上の権利期間を延長させ、製品ライフサイクル全体を通じて研究開発費を回収しようとする取り組み」とすることができます。
 通常、新薬の核心をなす化合物の特許がきれると、間もなくジェネリック・メーカーによって安価な後発品が投入され、新薬を最初に開発した企業の利益回収は脅かされることになるわけですが、このとき、例えば化合物を低コストで精製する製法特許を押さえておけば、十分な価格競争力を維持することができるわけです。

 もう10年近く前のことですが、私は日本の製薬企業を対象として知財マネジメントの実態調査を行ったことがあります。その調査では、主に研究開発志向型の企業によって構成されている「日本製薬工業協会」所属企業については、既に9割近い企業がライフサイクル・マネジメントを実施しているという結果を得ました。
 その具体的な手法は、物質特許の早期取得に始まり、用途、製法、剤型、投与方法、併用剤など広範な周辺特許の戦略的な取得を含むものでした。また、これを実施している企業においては、「製品寿命の長期化」、「後発品の参入排除」といった主要な戦略目標に関する効果が高く評価されていました。
 このように、研究開発志向型の製薬企業におけるライフサイクル・マネジメントの導入は、利益の専有可能性を高めていることが窺えたわけですが、もう一点興味深い事実発見がありました。それは、ライフサイクル・マネジメントの経験年数が長い企業ほど、単に特許を排他的な権利として行使するばかりでなく、選択的に他社に実施許諾し、ライセンス収入によって利益を回収する方法を併用しているということです。この点は、技術の普及が促されるという意味で、望ましいことかも知れませんが、どのような内容の技術が選択的に独占され、あるいは選択的に外部移転されているのかについて、さらに詳しく調査してみる必要があります。
 次回は、特許による技術の独占と技術ライセンスが、産学連携に及ぼす影響について考えてみたいと思います。

今回のまとめ:研究開発から得られる利益の回収が重大な課題とされている産業では、知的財産のライフサイクル・マネジメントという手法の導入が進展しています。

分野: 知的財産 |スピーカー: 永田晃也

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