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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 知的財産権(6)「『強い特許』は望ましいか」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

知的財産権(6)「『強い特許』は望ましいか」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

13/11/28

前回は、1970年代末にはじまる米国の特許重視政策が、国際的な産業競争力の回復を目的とするものであったこと、これを背景として企業間の特許紛争が頻発するようになり、日本企業にも特許戦略の重要性に対する認識が高まったことなどをお話しました。
 今回は、国が特許政策を重視し、企業が特許戦略を強化するという傾向は、そもそもイノベーションに基づく競争優位の確保という目的から見て、正しい選択肢なのかどうかという点について考えてみます。

 この論点は、「強い特許」の存在が、イノベーションにとって望ましいのかという問いの形に言い換えることができます。
 「強い特許」とは、特許の保護範囲が広く、存続期間の長い特許を意味しています。今日、多くの国では特許期間は出願から20年とされるなど、特許制度のハーモナイゼーションが進展してきたという話しを前にしましたが、特許の保護範囲や実質的な権利の存続期間は、各国における制度の運用によって変化させられることがあります。
 例えば、日本では1987年の特許法改正によって、医薬品や農薬などの特許について存続期間の延長が認められることになりました。
 また、企業間で特許のライセンス契約が行われる際、ライセンシー(実施権を受ける側)が、その特許技術を元に将来実現する改良技術について、ライセンサー(実施許諾を行う側)への開示や、実施許諾などを義務づける条項が盛り込まれることがあります。これをフローバック条項と言い、その内容によっては元の特許権の範囲を超える不当な権利行使として独占禁止法によって規制されるケースがあります。しかし、そのような競争政策上の規制が弱い場合には、元の特許の権利が、その改良発明にまで及ぶことになり、存続期間の延長と実質的に同じ効果を持つことになるわけです。

 一方、特許による権利保護範囲の広さは、形式的には特許明細に記載される請求項(クレーム)の数によって規定されると見られています。しかし、より実質的な保護範囲の広さは、特許の対象となる発明がどの程度広義に捉えられるかという点と、特許侵害の事実が法廷で争われることになった際に、どこまでクレームの範囲が広く解釈されるかという点に規定されることになります。
 特許の対象となる発明には、次第に広範な内容が含まれるようになり、アメリカでは数学のアルゴリズム(演算方法)に特許が成立したケースもあります。また、ひと頃、ビジネスモデルも特許の対象になるということが、企業の関心を集めたことがあります。
 特許のクレームの範囲を広く解釈する考え方は、「均等論」(doctrine of equivalents)に代表されます。これは、クレームに記載の発明と実質的に同じ方法、機能、結果をもたらす技術を、特許権の技術的範囲に相当するもの、均等であるものとして、侵害の成立を認めるという考え方です。前回事例として挙げたミノルタ対ハネウェルの事件でも、均等論が適用されたと言われています。

 さて、このようにして成立する「強い特許」は、果たしてイノベーションにとって望ましいのでしょうか。
 一般的に、新薬の開発のような巨額の研究開発費を必要とする領域にとっては、強い特許によって発明の権利が保護されることは、研究開発費を回収する上で重要な意味を持っていると言うことができます。
 しかし、製品を構成するために多くの要素技術が必要となる領域や、技術開発が累積的に行われる領域では、強い特許の存在が、その後の技術開発の妨げになることが知られています。
 また、技術が未成熟な段階では、強い特許が取得できるということは開発競争のインセンティブとなるため、技術の発展にとって望ましいけれども、技術が成熟した状態で強い特許が存在すると、改良的なイノベーションが阻害されるとみられています。

今回のまとめ:強い特許の存在は、いかなる産業の、いかなる発展段階にとっても望ましいとは言えないため、特許制度の運用は、自国の産業の特性と、その発展段階を考慮して運用される必要があります。

分野: 知的財産 |スピーカー: 永田晃也

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