QT PRO モーニングビジネススクール

QT PRO
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QT PRO モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録 電子書籍で記事を読もう! EPUB

ブログ&ポッドキャスト詳細

QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 世界同一賃金② (国際経営、国際物流/星野裕志)

世界同一賃金②

星野裕志 国際経営、国際物流

13/09/18

 昨日はユニクロの柳井会長の提唱された世界同一賃金という考え方から、先進国と開発途上国の賃金格差の意味することについて考えてみました。私たちが当たり前に受け入れている開発途上国で生産された製品だから安くて当然ということも、実はその賃金差以上の無理が、生産現場に強いられて実現しているように思います。
 同一労働同一賃金について、ひとつの面白い例を紹介したいと思います。世界の多くの船が、パナマやリベリア船籍であり、日本を含めて先進国の海運会社もあえて、船の戸籍である船籍をパナマやリベリアに置くことにメリットがあることを、以前にも番組で紹介しました。これらの船を便宜置籍船と言うこともご紹介しました。例えば日本に比べて、法人税や登録に関わる費用が安く、安全などの基準が国土交通省の規定よりも緩やかであり、雇用する船員も日本人に限定されないなど、人件費などのコストも低いなどの利点があるということでした。
 その人件費の差はどのくらいなのかというと少し古い数字ですが、同じ貨物船を運航するのに、日本人16人であれば合計299万ドルに対して、パナマやリベリアの船籍であれば23人で63万ドルとのことです。日本人であれば、より少数精鋭で運航が可能なのですが、一人当たりに直してみると日本人の給与は6倍にもなります。日本船主協会の調べによると、世界で貨物船に乗り込む船員の数の合計は、120万人くらいだそうですが、もっとも多いのはフィリピンの23万人、インドネシアと中国の8万人、ロシア人とインド人の5万5千とのことです。ちなみに日本人船員は、5千人程度しかいないそうです。つまり、実際には先進国の企業が所有して、パナマやリベリアに船籍を置く船に乗り込むのは、このような国の賃金の安い船員ということになります。
 現地との賃金格差を考えて、多国籍企業が開発途上国に生産拠点を置くことを考えると、それは生活費の安い場所で比較的単純労働に従事する労働者のことを意味するのですが、船舶の場合には先進国の船員でも開発途上国の船員でも、まったく同じ条件で同じ環境で仕事をしていることになります。まさに同一労働です。前回のテキスタイルの話では、開発途上国で生産する場合、生活費が安いから人も安く雇用できるという話をしましたが、船は違います。日本の海運企業が所有する船舶では、混乗船=混じって乗る船という名称で、日本人とフィリピンなどの船員が一緒に乗務する船もありますが、それもまさにその例です。同じ条件で、同じ仕事をしています。
 国際運輸労連(ITF)というロンドンに本部を持つ国際的な労働組合の団体は、世界の34カ国を便宜置籍国と認定して、これらの船で雇用される船員の賃金や労働条件をグローバルに監視しています。労働者の権利を保護するために、ITFで定める賃金が船員に払われていないと、船舶の運航や作業のボイコットやピケなどの強硬手段を行使することもあります。
 かつて、インドがITFによって便宜置籍国に認定されて、規定の賃金が支払われていないことを指摘された際に、インドは国内の賃金水準は非常に低く、ITFの規定を下回っていても雇用が必要であると反論しました。ここに問題の本質はあります。
 グローバルな規模で、同じ仕事に従事する人たちの同一労働に対して、同一賃金が支払う必要があるならば、多国籍企業が開発途上国に進出する利点は小さくなります。先進国の海運企業が、開発途上国の船員は雇用することも少なくなるでしょう。そうなると開発途上国の労働者にとっての死活問題であり、船員としての専門的な技術があれば本国よりも良い賃金が得られる機会が奪われることになります。
 今日のまとめですが、開発途上国で必要とされる雇用の機会や現実を考えると、同一労働同一賃金ということが、いかにILOで基本的な人権と捉えられていても、決してグローバルに浸透しない問題があります。問題の解決は簡単ではありません。

分野: 国際ロジスティクス 国際経営 |スピーカー: 星野裕志

トップページに戻る

  • RADIKO.JP
  • ビビックスマホ