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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 因果関係の話 (産業政策、通信政策、通信経済学/実積寿也)

因果関係の話

実積寿也 産業政策、通信政策、通信経済学

13/06/24

今日は「因果関係のループの長さ」についてお話ししたいと思います。最初に断わっておきますが、このお話はシリコンバレーでコンサルタントをやっておられる海部美知さんという方が「ビッグデータの覇者たち」という本の中でご紹介されている話をベースとしています。

「ビッグデータの覇者たち」という本は、最近、ビジネス界で話題になっているビッグデータの活用についてわかりやすく解説したものです。ビッグデータというのは、フェイスブックやツイッターに投稿されている膨大な情報や、携帯電話やカーナビで集められている位置情報、気象観測システムで自動的に蓄積されている気象情報、さらには政府や地方自治体が提供しているイベント情報や市政情報など、それこそ日々発生しているありとあらゆる情報を組み合わせ、発達著しい情報通信技術を活用することで将来予測などに役立てようとするシステム全体を意味する、というのが海部さんの定義です。
上手く使えば非常に便利なものであることは疑いないところです。身近な例でいえば、スマートフォンやカーナビが私たちの嗜好やその場の雰囲気に合わせたレコメンデーションをしてくれれば、レストランを探す手間が大いに軽減されるでしょう。節電に対して大きな力を発揮することが期待されているスマートグリッドについても、ビッグデータの活用による発電の効率化が主要な目的です。しかしながら、そのメリットは、私たちの日常生活から生まれる様々な情報を自動的に吸い上げる仕組みが前提になりますから、「気持ちが悪い」「なんとなく不安だ」という懸念を生じるのは仕方がない面もあります。
では、そういった懸念を克服して、より便利な環境を実現するためにはどうすればよいでしょうか?ここで海部さんが提案しているのが「効果のループ」、言い換えれば「因果関係のループ」を短くするというやり方です。個人情報をシステムに差し出すのであれば、差し出すことに対する「気持ち悪さ」、つまり「デメリット」を上回る「メリット」を本人に直接、できるだけ早く返せるようにシステム設計をするべきだと提案されています。「社会全体のためになるのだから、少々気持ちが悪くても個人情報を出すべきだ」という言い方では大きなムーブメントにはならないというわけです。私もこの考えには賛同します。
このことは、経済学的にいった場合、人間を動かすためには適切なインセンティブを与える必要があることを意味します。映画を見る場合を考えてみましょう。入場料や2時間という時間を失うという「デメリット」を上回るだけの「メリット」、つまり映画の楽しみが期待できるから、我々は自分から進んで映画館に足を運ぶわけです。
人間に具体的な行動を促すうえで大切なことは、明確なデメリットには明確なメリットが対応する必要があるということです。ビッグデータの例にもどれば、個人情報を収集されるという具体的なデメリットを甘受してもらうためには、本人に有益な情報や、あるいはキャッシュバックが得られるといった具体的なメリットを提示する必要があります。その場合、理論的に言えば、追加的に新たな個人情報を一単位だけ提供することから生じるデメリットと、それにより新たにもたらされるメリットが等しくなるところまで個人情報の利用が進むことが期待できます。ただ、問題は、こうして実現される個人情報の利用量が、社会的に最適な利用量から見ると必ず少なくなるという点にあります。個人情報の利用が生み出すメリットのある部分は、本人に還元される因果関係のループが長いため、私たちの意思決定において往々にして軽視されてしまうためです。ビッグデータにより物流システムが効率化され、その結果、トラックの交通量が減少し、交通事故件数が少なくなるといったメリットは社会全体からみれば重大な価値があり、最終的には一人一人のメリットになるわけで
すが、個人情報の出し手からみると、あまりに因果関係のループが長いため、デメリットと対比すべきものとしては認識することが難しいというわけです。

デメリットと対比して認識できるメリットが存在しないということを少し理論的にいうと、そのための市場が成立していないということを意味します。代金を払ったのにサービスを受けることができない商店には誰もモノを買いにいかないので取引が発生しない、つまり交換の場としての市場が存在しないということです。経済学では、すべての取引は市場メカニズムを通じることにより最適化されると教えていますが、市場が成立していないため、市場メカニズムによる最適化が実施されず、社会的に必要なビッグデータ利用が実現できないというわけです。そのため、適切なビッグデータ利用を実現するためには、消費者一人一人や、あるいは個別企業の枠組みを超えた立場で判断する必要があることになります。個人を超える存在としての政府の意義はそういった点に求められるわけです。つまり、私たち一人一人や個別の企業よりもずっと広い視野で因果関係のループを理解し、メリットとデメリットを比較するという行為が理想の政府の果たすべき役割となります。

分野: 産業政策・通信経済学 |スピーカー: 実積寿也

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