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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > 公共政策におけるナレッジマネジメント (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

公共政策におけるナレッジマネジメント

永田晃也 技術経営、科学技術政策

13/04/30

前回は、ナレッジマネジメントの対象としてのソーシャル・キャピタル、社会関係資本についてお話しました。社会関係資本とは、共同体に価値をもたらす協力的な人間関係のことであり、それを形成する主要な要素のひとつが信頼です。そして、信頼とは相手の協力的な行動や意思に対する期待であり、そのような期待の根拠は相手の行動傾向に関する知識であるため、信頼は知識資産と呼ばれるわけです。信頼によって形成される協力的な関係は企業に高い生産性をもたらすことが知られており、それ故に信頼の構築はナレッジマネジメントの重要な関心事とされてきたということについてもお話しました。
 さて、社会関係資本は、企業の経済活動ばかりでなく、公共の利益にも深く関係しています。今回は、この点に関連して公共政策におけるナレッジマネジメントの課題を論じてみたいと思います。

【社会関係資本の捉え方】
 社会関係資本が個別企業の経済活動以外にも様々な影響を及ぼすということについては、多くの実証研究が行われています。
 まず、因果関係が明らかにされたとは言えませんが、国レベルでみて社会関係資本が豊かであるほど、実質の経済成長率が高いということを示した研究があります。また、社会関係資本が豊かな地域は犯罪発生率が低く、安定しているということが明らかにされています。さらに、社会関係資本が豊かな地域では、人々の健康状態が良好であり、教育水準が相対的に高いということも示されています。社会関係資本が、インフラや法制度の整備状況などからみた政府の効率と関係しているということを示した研究もあります。
 こうした実証研究の中で課題とされてきたのは、社会関係資本の状態を、どのように計測、把握するのかということです。
 社会関係資本の状態を把握する上で広く用いられているのは、質問票調査によって社会全般に対する一般的な信頼に関する質問を行い、回答データを集計する方法です。その際、設定されてきた質問項目は、「たいていの人は信頼できると思いますか。それとも、用心するに越したことはないと思いますか」というものです。
 このような質問票調査による社会関係資本の把握は、社会学者らの国際的なプロジェクトである「世界価値観調査」(Word Value Survey)や、シカゴ大学の研究者らによる「一般社会調査」(General Social Survey: GSS)で行われてきました。日本でも、統計数理研究所の「国民性の研究」というプロジェクトの中で、同様の試みがなされています。
 一方、このような主観的な尺度ではなく、何らかの客観的なデータを代理指標として社会関係資本の状態を計測しようとする試みもあります。
 例えば、社会学者のロバート・パットナムは、「市民共同体指数」という指標によって社会関係資本の計測を試みていますが、これは市民活動団体参加率や国民投票参加率などのデータを合成した指標です。
 また、パットナムは、『孤独なボウリング』という著書の中では、ひとりでボウリングをする人口の増加を手掛かりとして、アメリカにおける社会関係資本の減退を論じています。

【社会関係資本に影響を及ぼす要因】
 では、社会関係資本は、どのような要因によって形成されるのでしょうか。この点が明らかにされれば、政策的な課題を特定できるかも知れません。そのため、国、地域社会、家族、個人といった様々なレベルでの分析が行われています。
 しかし、それらの分析は、しばしば何らかの相関がありそうな要因を抽出することに止まっているため、因果関係まで明らかにしたとは言えないケースが少なくありません。前述の社会関係資本が及ぼす影響の中には、社会関係資本の決定要因として扱われているものもあります。例えば、教育水準の高さ、法制度やインフラの整備状況などは、社会関係資本を形成する要因でもあると考えられるわけです。
 ただ、ここでは明らかに因果関係を構成する要因の側にあると想定できるものとして、経済的な平等性に注目しておきたいと思います。人々が経済的に平等な環境におかれているほど、互いに不信感を持ちにくく、協力的になるということを、私たちは経験的にも知っています。
 言い換えれば、経済格差の拡大は、社会関係資本を毀損する原因になるわけです。この点については、日本大学の稲葉陽二教授が『ソーシャル・キャピタル入門』という著書の中で強調しています。

【公共政策へのアプローチ】
 さて、社会関係資本を一種の知識資産として捉える観点に立てば、社会関係資本をどのように形成し、社会の発展のために役立てていくのかという公共政策の課題に対して、ナレッジマネジメントからのアプローチを構想することができるでしょう。
 その際、企業におけるナレッジマネジメントと、公共政策におけるナレッジマネジメントの間で、本質的に異なる点は何かを理解しておくことが肝要です。
 企業では、いろいろな考え方、価値観を持った人たちが働いているわけですが、少なくともひとつの組織のもとで働いている以上、その組織目標が合意され、利害が共有されているという前提に立つことができるでしょう。しかし、公共政策が対象とする社会的な問題には、多様なステークホルダーが関与しており、その利害関係は一致していません。社会を構成する人々の考え方や価値観はもとより多様です。そうした状況のもとで、政策的な意思決定を行うための合意形成を図るということは、極めて困難な課題となる筈です。
 しかし、その合意形成を図るために、国民ないし地域住民相互のコミュニケーションを促進することが、社会関係資本の形成に結び付くでしょう。そのような公共政策の取り組みが、新たな政策という知識の創造に結び付くためには、まず政策担当者と国民ないし地域住民との間に信頼関係という知識資産が蓄積されている必要があります。それこそが、公共政策に対してナレッジマネジメントの観点が示唆する本質的な課題だと思います。

分野: ナレッジマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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