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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ナレッジマネジメント(14)「知識資産の概念と計測方法」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ナレッジマネジメント(14)「知識資産の概念と計測方法」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

13/03/21

 これまで既存の知識を活用する方法や、新たな知識の創造を支援する方法についてお話してきました。それらの方法を通じて創出、活用され、組織の内部に蓄積される知識は、その組織に資産的な価値をもたらします。しかし、知識は無形であるため、その所在を捕捉し、その資産的価値を測定・評価することが困難です。今回は、いかにして知識資産の価値評価を行うことができるかという論点を取り上げてみます。

【知識資産の概念】
 まず、「知識資産」(knowledge asset)という語には、様々な類義語がありますので、混乱しないように、その概念を整理しておきたいと思います。
 類義語には、例えば「知的資産」(intellectual asset)とか、「知識資本」(knowledge capital)があります。「知的資本」(intellectual capital)という語が使われることもあります。これらは、いずれも経営資源としての知識の価値を概念化したものであるという意味では共通なのですが、どの語を主に用いるかは、ナレッジマネジメントの論者によって異なっています。
 私はその概念に関連する文献をレビューしてみましたが、その結果分かったことは、「知識」と「知的」の使い分け、「資産」と「資本」の使い分けには意味がないという拍子抜けするような事実でした。例えば「知識資産」と「知的資産」の間、「知識資本」と「知的資本」の間には概念上の明らかな差異が認められません。
 資産概念と資本概念については、会計学的な定義を踏まえて意識的に使い分けようとしている論者もいます。その場合、明確に企業利益に貢献できる部分を「知識資産」または「知的資産」と呼び、明確に企業経営に利用できる部分を「知識資本」または「知的資本」と呼ぶという使い分けが行われます。ところが、もともと知識には企業経営にとって入力であるとともに、その出力でもあるという性格、言い換えれば企業経営に利用される側面とともに、企業利益に貢献する側面があります。それらは不可分な性格ですから、資本概念と資産概念を区別することには記述上の積極的な意味があると言えないのです。
 したがって、どれを用いてもいいのですが、私は野中先生の用語法にならって知識資産という語を用いることにしたいと思います。
 なお、知識は「無形資産」(intangible asset)、「見えざる資産」(invisible asset)などと呼ばれることがありますが、これらは単に知識の無形性に注目して概念化した語であると理解できるでしょう。

【資産的価値の計測方法】
 では、知識資産の経済的な価値を計測する上で、どのような方法が試みられてきたのでしょうか。これについては、大きく2つの方法に分けることができると思います。ひとつは、知識資産が企業の利益や成長に貢献した部分を直接計測することは困難であるため、何らかの参照データを用いる方法であり、もうひとつは間接的に計測する方法です。
 まず、参照データを用いる方法から説明します。そもそも何故、知識の価値を評価することが難しいのかと言えば、それは市場で取引することが困難だからです。しかし、知識が実体化されたもの、例えば特許のような知的財産に限ってみれば、取引の対象になり得ます。実際、知的財産の価値評価には、3つの方法がとられています。それらは、「マーケット・アプローチ」、「インカム・アプローチ」、「コスト・アプローチ」です。
 このうちマーケット・アプローチが市場価格によって評価する方法です。この方法では、類似の取引事例に関するデータが参照されます。これは最も望ましい方法とされているのですが、画期的な発明の権利ほど、類似の先行事例が乏しいため、データの利用が制約されることになります。
 インカム・アプローチというのは、当該の知的財産から将来期待できるキャッシュフローの現在価値を求める方法で、最もポピュラーに用いられていますが、期待値の予測はやはり過去の事例データに依存することになります。
 最後にコスト・アプローチですが、これは当該の知的財産を取得するために要した費用によって評価する方法です。例えば特許であれば、その保護対象である発明を行うために支出した研究開発費が参照されることになります。
 
 このような事例データを参照する方法が適用できるのは、知的財産のような実体化された知識に限られます。しかし、企業にとって資産的な価値を持つ知識の中には、例えば組織ルーティンであるとか、顧客との信頼関係のように、実体を持たず、市場での取引の対象にならないものがあります。それらを含め、知識資産全体の貢献を把握するために、間接的な計測方法が採られることになります。
 その代表的な方法は、株式時価総額で表される企業の市場価値と、会計簿価で表される企業価値の差額を求め、それを知識が生み出した価値に相当すると考えるものです。この方法を発展させたものとして、時価評価差額などを考慮した組織バランスシートがあります。
 また、投資理論で用いられるトービンのqレシオという指標が応用されることもあります。これは株式時価総額を、純資産で割ったものです。この値が1より高い場合、市場は企業の有形資産以上の何らかの資産の価値を評価していることになるというわけです。
 こうした計測方法は分かりやすいのですが、間接的なアプローチであるが故の限界も存在します。企業の市場価値が簿価を下回るということは、しばしば短期的な変動として起こるのですが、その結果だけで、当該企業がマイナスの資産価値を持つ知識を保有していると断定することは早計でしょう。

【知識の所在】
 これらの方法は、いずれも金額表示される価値を計測しようとするものですが、知識の存在形態の多様性を考慮して、多様な尺度で包括的に知識の価値を把握しようとする試みもあります。
 例えば、北欧の保険サービス会社であるスカンディア社では、「ナビゲーター」と呼ばれるツールが導入されています。これは、財務、顧客、人材、プロセス、革新・開発といった5つのフォーカスで、知識資産の状態が把握するものです。例えば、顧客フォーカスでは、市場シェアのようなデータだけでなく、調査によって把握された顧客満足度などが指標として用いられています。

 しかし、どのような方法を用いても、それで全ての知識の価値を把握することができたとは考えないことが肝要です。経営管理の世界では、「測定できないものは管理の対象にできない」などと言われることがありますが、私はそのような言説には与しません。目に見えず、測定できなくとも、重要な知識というものは確かに存在します。むしろ本当に重要なものは、目に見えないのです。ナレッジマネジメントの課題は、その重要性を洞察することにあります。

分野: ナレッジマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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