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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ナレッジマネジメント(12)「知識移転の方法」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ナレッジマネジメント(12)「知識移転の方法」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

13/03/05

前回は、知識共有の戦略についてお話しました。今回は、知識共有を成立させるための知識移転の方法について取り上げてみたいと思います。
 
 
【知識移転の5つの方法】
 知識移転の方法については、ナンシー・ディクソンという研究者が、2000年に刊行されたCommon Knowledgeという本の中で、わかりやすい分類を試みています。この本には、『ナレッジマネジメント5つの方法』という翻訳書もあります。まず、この本に従って、知識移転方法のパターンをみておきましょう。

 ディクソンは、5つの基準によって、知識移転方法を分類しています。その基準とは、「知識の受け取りチームと源泉チームの業務内容がどれほど似ているか」、「知識が実行される業務内容は定型的か非定型的か」、「移転される知識は暗黙知か形式知か(あるいは両方か)」、「知識の実行によって組織全体が影響を受けるか」、「受け取りチームは知識を実行するための吸収能力を持っているか」というものです。その上で、知識移転の5つの方法が提示されていますが、それらは「連続移転」、「近接移転」、「遠隔移転」、「戦略的移転」、「専門知移転」です。

 連続移転とは、あるチームがある状況のもとで行った業務から得た知識を、そのチームが、つぎに別の状況で同じような業務を行うときに使うというものです。つまり同一チーム内での、時間を隔てた知識移転です。このような知識移転を進めるには、業務から得られた知識を収集するために、チームメンバー全員の参加によるミーティングを定期的に開催することが推奨されます。また、ミーティングでは互いに批判しないことが肝要です。ある業務での失敗経験から得られた知識は、次の業務を遂行する上で有用ですが、ミーティングで相互批判が行われると、そのような失敗経験が十分に開示されない可能性があるからです。

 次の近接移転(near transfer)とは、あるチームが頻繁に繰り返し行う定型的業務から獲得した形式知を、似た業務を行う別のチームに移転し、再利用させる方法です。つまり近接とは地理的な距離の近さではなく、状況の類似性を意味しているわけです。ここで移転の対象となるのは形式知ですから、データベースなど電子的な媒体による伝達が移転の主な方法になります。ただ、データベースなどは、利用者側のニーズを反映していないと、あまり利用されない状態に陥ることがありますから、利用状況をモニターするとともに、その形式や内容は利用者に特定されることが重要とされています。

 これに対して遠隔移転(far transfer)とは、あるチームが非定型の業務を行って得た暗黙知を、異なる状況で同じ業務を行っている別のチームに移転して
利用させる方法です。ここでは暗黙知が移転の対象となるため、知識を保有している人が組織内を移動し、双方向のやりとりを通じて移転することが推奨されています。

 4番目に挙げられた戦略的移転とは、M&Aのようなまれにしか生じない戦略的業務に関する暗黙知と形式知を、その業務を担当するチームが利用できるようにしておく方法です。この場合、知識の収集は、スペシャリストがリアルタイムで行うことが推奨されています。

 最後に挙げられた専門知移転とは、専門的な形式知を個人やチームの間で移転させる方法です。この場合、トピックごとに分かれた電子フォーラムを開催し、様々なメンバーの参加を得ることが奨励されています。以上のように、知識移転の方法を選択する際には、知識が実行される業務の性格や移転される知識の性格などを考慮する必要があるということです。
 
 
【知識移転コストの非対称性について】
 以上のようなディクソンの分類は、分かりやすいものですし、知識移転方法の選択に対して有用な指針を提供していると思います。しかし、そこで論じられている方法が主としてチーム間での知識移転であるため、知識移転を行う個人のレベルで発生する問題に対しては、十分な解決の指針を与えているとは言えません。この点について、もう少し論じてみたいと思います。

 ディクソンも注意を促しているように、知識移転ないし知識共有を目的としたデータベースのような情報システムは、しばしば十分に利用されないという問題に直面することがあります。ディクソンは、その理由を「情報システムを作れば後はうまくいく」という思い込みに帰属させているのですが、そのような理解だけでは問題解決の糸口は見いだせないと思われます。

 私は以前、ある企業に導入された知識移転システムの利用状況について調査・分析する機会を得たことがあります。分析結果から分かったことの一つは、知識移転には心理的、時間的な側面を含む様々なコストがかかっており、そのような知識移転コストは、知識を必要としている人において相対的に低く、知識を保有している人において高いという非対称性が存在しているということでした。例えば、様々な業務を経験してきた人は豊富な暗黙知を保有しているのですが、そういう人ほど多忙な管理業務に従事しており、自分の所管でない部署で求められている知識を表出化することには相当の時間的コストがかかることになります。

また、作業現場で働く時間が長い人は、現場に関する豊富な経験的知識を保有しているのですが、デスクワークの時間が短いので、知識提供を行うためのシステム入力にかかる時間的コストが相当に高くなります。その一方で、まだ業務経験が浅く、知識を求めている人は、システム利用にかかる時間的コストが相対的に低いのです。

 このような問題に対しては、少なくとも二つの解決方法を提案することができると思います。一つは、知識移転システムの入力に要する時間を、公式の業務として組織的に認知することです。もう一つは、知識を提供できる人を補佐するために、知識移転システムの入力を専門に担当する人を配置することです。このように知識移転の阻害要因を個人レベルに降りて分析することによって、知識移転システムの利用に新たな指針を提供できるのではないかと思います。

 2回に亘って、知識の移転・共有の方法に関する話をしてまいりました。これらは、いずれも既存の知識を再利用するためのものですが、ナレッジマネジメントは既存知識の活用に止まらず、新たな知識の創造を目指すものでなければなりません。次回は、知識創造を促す発想支援の方法についてお話したいと思います。

分野: ナレッジマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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