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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ナレッジマネジメント(11)「知識共有の方法」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ナレッジマネジメント(11)「知識共有の方法」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

13/03/04

前回からナレッジマネジメントの具体的な手法についてお話していますが、これから2回に亘って、知識移転と知識共有の方法というトピックを取り上げたいと思います。知識移転とは、人から人に、あるいは組織から組織に知識が伝えられることを言い、その結果として、それらの個人間、組織間で知識が共有されることになります。ですから、知識移転は知識共有を成立させる要因と言ってよいわけですが、まず、どのような知識共有の状態を作り出すのかといいう目的の側から論じてみます。
 
 
【コード化戦略と個人化戦略】
 ティアニー、ノーリア、ハンセンという3人の研究者は、1999年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表した論文の中で、知識共有の二つの戦略を提示しています。「コード化戦略」と「個人化戦略」と呼ばれるもので、この戦略類型は、その後、ナレッジマネジメントの文献の中で、頻繁に引用されることになりました。このうち「コード化戦略」とは、可能な限り知識をデジタル化してデータベースに蓄積し、組織のメンバー全員が容易にアクセスできるようにする戦略です。この戦略には形式知の再利用による経済性を追求できるというメリットがありますが、多額のIT投資を必要とします。

 この戦略に相当する事例として、デル・コンピュータのビジネスモデルが挙げられています。よく知られたことですが、同社はコンピュータの製品仕様に関するデータベースを構築し、そこから顧客が選択した仕様のセットに応じて安価なパソコンを組み立て、直接販売するビジネスモデルを導入しました。その中核をなすデータベースが、コード化された知識のリポジトリー(貯蔵庫)と見られているわけです。

 一方、「個人化戦略」とは、知識とそれを創出した人とを密着した状態にしておき、人と人との直接対面によって知識を共有させる戦略です。この戦略は、個人間のネットワークによって暗黙知の共有を図ろうとするもので、知識の専門分化を深めることによる経済性を追求できるというメリットがあります。コード化戦略のような巨額のIT投資は要しませんが、直接対面による対話の促進に要するコストがかかります。この戦略に相当する事例として挙げられているヒューレット・パッカードの取り組みでは、画期的な製品の開発プロジェクトにおいて、エンジニアを直接対面のミーティングに参加させるため、社用飛行機が使用されているということです。

 これらの知識共有戦略は、それぞれメリットとともにリスクを伴う側面がありますから、どちらかの戦略が常に望ましいということはなく、補完的な性格を持っています。コード化戦略は、形式知の共有を促進するものですが、知識をコード化しておくことには、競合他社の模倣を容易にするというリスクが伴います。他方、個人化戦略は、知識を暗黙知のまま共有することを促進するものですが、重要な暗黙知を保有している個人が社外に流出すると、復旧させることが困難に陥るというリスクが伴います。

 また、これらの戦略は、企業が提供している製品・サービスの性格によっても、適合性が異なると考えられます。例えば、提供される製品が、価格以外に差別化要因がなくなったコモディティ商品である場合は、製品に関する多くの知識が既に安定していますから、コード化戦略が適しているでしょう。一方、顧客ニーズによって対応が異なるカスタマイズ商品の場合は、個人化戦略が適していると考えられます。また、一般的に言えば、製品開発プロセスや顧客対応における問題解決が形式知に依存する程度が高い場合はコード化戦略が適し、暗黙知に依存する程度が高い場合は個人化戦略が適しているということになります。

 知識共有戦略は、こうした点を考慮して選択する必要があるわけです。
 
 
【知識共有の技法】
 つぎに、知識共有を促すための技法について説明しておきたいと思います。まず、知識共有の場を作るということです。ここで言う「場」には、物理的な空間と、サイバー空間と呼ばれるネットワーク上の場の双方が含まれます。
ここで、前回ご紹介したゼロックス社のユーレカというイントラネット上の知識共有システムを思い起こしてください。そのシステム開発のきっかけになったのは、カスタマーエンジニア達が、帰社後、コーヒーコーナーに集まり、その日の手柄話などを語り合っていたことが注目されたということでした。この事例から窺えるように、コーヒーコーナーや談話室のような、自然に人々が集まる物理的空間は、重要な知識共有の場になることがあります。

 「ナレッジフェア」と呼ばれるイベントを開催することも、知識共有の場づくりのために、しばしば採用されている技法です。これは、企業内で各部門やグループにおけるナレッジマネジメントの実践とその成果に関する展示会を開催し、部門間などでの知識共有を図るものです。サイバー空間上の知識共有の場というのは、ユーレカのような知識共有システムが提供する機能です。ただ、このようなシステムでは、蓄積される知識が多くなるほど、求められる知識の所在が分かり難くなるため、データベースの全体像を俯瞰的に示す見取り図を付けておくことが推奨されます。そのような見取り図は、「ナレッジマップ」などと呼ばれています。

 また、データベースに知識を登録する際、あまり一般化した手続き的な記述の仕方で登録すると、その機能的な重要性や、使い方がうまく伝わらないという問題が生じます。以前お話したように知識は情報とは異なり、それを使う主体が定義的に存在します。したがって、いかなる知識も本来、それが使用されるコンテクスト(文脈)から切り離された形では実体をなしません。したがって、知識の機能的なリアリティを伝えるためには、手続き的な部分情報として記録するのではなく、その知識が創出された文脈ごと記述すること、つまり「物語」としてまとまりのある形で伝えるという方法が有用です。

 このナレーティブ(物語的)に伝えることの機能については、つぎのような場合を考えてみてください。例えば、私たちは、旧い知人の顔を思い出せないとき、その人とどのような状況で知り合ったのか、どのような交友関係があったのかといった文脈を追憶することによって、その顔を想起できることがあります。これは、顔という部分情報ではなく、文脈全体に関する記憶が、知識として活かされることを示しています。

分野: ナレッジマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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