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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ナレッジマネジメント(10)-実践共同体の発見 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ナレッジマネジメント(10)-実践共同体の発見

永田晃也 技術経営、科学技術政策

12/12/18

前回まで、ナレッジマネジメントのバックボーンとなる理論について解説してきましたが、これから何回かに亘って、経営手法としてのナレッジマネジメントを実践する上での具体的な取り組み方や課題についてお話してみたいと思います。まず今回は、ナレッジマネジメントの導入プロセスを取り上げます。
 
 
【ナレッジマネジメント導入の成功事例】
 はじめに経営手法としてのナレッジマネジメントとは何かについて、簡単に振り返っておきたいと思います。
 ナレッジマネジメントとは、1990年代後半以降、欧米にはじまって世界的に注目されるに至った経営コンセプトないし経営手法です。経営手法としてのナレッジマネジメントは、組織の内外に存在する知識を経営資源として活用し、業務プロセスの改善を目指すものとして定義されています。
 ナレッジマネジメントが広く注目を集めるようになった背景には、実際に知識の共有などを促進することによって生産性の向上を達成した多くの先進的な事例が知られるようになったということがあります。代表的な事例のひとつとして、ゼロックス社を挙げることができるでしょう。

 同社では、1996年当時、ポール・アレア会長の主導する長期戦略の一環として、知力の向上を目的とした「コーポレート・ナレッジ・イニシアチブ」と呼ばれる取り組みを開始しました。それは、知識に関連する企業経営の様々な側面を理解するための詳細な調査・分析を行い、そこから同社にとっての事業機会を探索しようとするものでした。知識に関する独自の研究も推進されました。こうした取り組みを背景として、「ユーレカ」と呼ばれる知識共有システムが開発されることになりました。

 このシステムが開発されたきっかけは、同社のパロアルト研究所に所属する人類学者が、カスタマー・エンジニア(CE)と呼ばれる技術的サービスの担当者たちの習慣に注目したことにあったと伝えられています。CEたちは、仕事から帰ってくると、コーヒーコーナーに集まって、その日の経験、例えばマニュアルにはない修理方法を発見してトラブルを解決したといった手柄話を語り合う習慣があったそうです。人類学者たちは、これが重要な知識共有の場になっていることを発見し、この習慣に適合したシステムを開発したというわけです。ユーレカは、全世界で活動しているCEたちに、経験的な知識をイントラネットの掲示板に提出させ、内容を承認した上で共有させるというものでした。この知識提供に対する金銭的インセンティブはなかったようですが、提供者の名前が掲載され、世界中の同僚から感謝されるという栄誉がモチベーションとなって、結果的に全世界で1万3000人ものCEがシステムを利用し、4年間で50億ドルものコスト削減に貢献したと報告されています。
 
 
【ナレッジマネジメントの導入プロセス】
 このよく知られた成功事例は、ナレッジマネジメント導入の要件や、その手順について重要な知見を提供しています。
 まず、ナレッジマネジメントが全社的な取り組みとして推進されるためには、ゼロックス社におけるアレア会長のような、経営トップの強いコミットメントが必要だということです。同時に経営トップには、ゼロックス社における「コーポレート・ナレッジ・イニシアチブ」のような、明確なビジョンを提示することが求められるということです。
 実際、ナレッジマネジメントに本格的に取り組んだ欧米の企業では、しばしば知識統括役員(Chief Knowledge Officer: CKO)と呼ばれるナレッジマネジメントの最高責任者が選任され、その主要な役割として全社的な知識ビジョンの策定が位置づけられています。

 ナレッジマネジメントの導入プロセスにおいて、つぎに取り組むべき課題は、社内外に存在する知識を探索し、その自社に対する意味を評価するということです。知識は不可視であるため、その存在の重要性に十分な注意を払っておかないと、簡単に損なわれてしまうかも知れません。ゼロックス社では、この課題に向けて独自の調査研究が推進され、人類学などの研究者も投入されました。
 自社にとって意味のある知識はどこに、どのような形態で存在しているのか。それはどこで、どのように創出され、交換され、蓄積されているのか。こうした問いかけに組織的に対応することができれば、つぎに見出された知識をデータベースに整理し、あるいはユーレカのようなシステムを構築して共有していくという取り組みに着手することもできるでしょう。すなわち知識共有のためのインフラ整備です。

 ここで注意しておきたい点は、イントラネットによる知識共有システムが可能にするのは、形式知の共有に限られるということです。では、暗黙知の共同化を支援するためには、どのようなインフラを整備すべきでしょうか。
 この課題に対して書かれてきた処方箋は、しばしばピーター・センゲ等が提唱する「学習する組織」(learning organization)の構築という方法を応用してきました。それは個人ではなくチームを学習の基礎単位とし、個々の部分ではなく部分の相互関係からなる全体を捉える「システム思考」を中心とすることによって、学習能力を持った組織を構築しようとするものですが、そのような思考法を定着させること自体が容易な試みではありません。

 ここでは、より確実で即効性のある処方として、「実践共同体」(communities of practice)の発見という取り組みを推奨しておきたいと思います。これは、人類学者のエティエンヌ・ウェンガーらが1991年に発表した概念で、「共通の専門的スキルや、ある事業へのコミットメントによって非公式に結びついた人々の集まり」を意味しています。それは、人々がともに学習するためのユニットとして、どんな組織にも自然に存在しているものです。例えば、ゼロックス社の事例にみられたように、CEたちが自然に集まり知識を交換するための場を作り出しているという状態は、その一例と言えるでしょう。ナレッジマネジメントの課題は、そのような自発的なコミュニティを発見し、育成していくことにあります。

 さて、ここまでのプロセスは、まだ既存の知識の共有、活用を促すための仕組みの導入に止まっています。ナレッジマネジメントの究極の課題は、新たな知識の創造にあります。そのための取り組みを含め、次回から更に具体的な方法について見ていきたいと思います。

分野: ナレッジマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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