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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ナレッジマネジメント(7)-SECIモデル (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ナレッジマネジメント(7)-SECIモデル

永田晃也 技術経営、科学技術政策

12/11/08

前回は、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生によって提唱され、ナレッジマネジメントのバックボーンとなった「組織的知識創造の理論」について、導入的な解説を行いました。この理論を理解する上での重要なキーワードである「暗黙知」について説明し、その概念は、マイケル・ポランニーがはじめに用いた意味とは異なる独自のものであることにも触れました。野中理論に言う暗黙知とは、五感を通じて獲得され、言語化が困難な知識を意味しています。また、これとは異なる知識のタイプとして、言語化された知識が「形式知」と定義されています。新たな知識は、こうした二つのタイプの知識が変換作用を起こすことによって創出されるという主張が、この理論の骨子です。
 今日は、その知識変換の捉え方について、見ていきたいと思います。

【知識変換モード】
 野中理論では、知識変換には4つのモードがあるとされています。
 第1の知識変換モードは、個人の保有している暗黙知を、他者が経験の共有を通じて獲得していくプロセスです。このように暗黙知が増殖していくプロセスは、職人の技能伝承に典型をみることができます。優れた職人が持っている技能は、しばしば言葉によって弟子に伝えられることが困難です。そのような場合、弟子は師の技能を見よう見まねで身につけていくことになります。このような知識変換モードは、共同化(socialization)と呼ばれています。
 第2の知識変換モードは、暗黙知が対話を通じて形式知に変換されるプロセスです。言葉にし難い知識を何とか表現しようとするとき、メタファー(比喩)やアナロジー(類比)などが用いられます。暗黙知は、こうした表現形態をとりながら、次第に明示的にされていきます。このような知識変換モードは、表出化(externalization)と呼ばれています。表出化の典型は、例えば製品開発プロジェクトにおいて、メンバーの抱いていた漠然としてアイデアなどが、仲間とのディスカッションを通じて次第にひとつのコンセプトにまとめあげられていく過程に見出すことができるでしょう。
 第3の知識変換モードは、異なる形式知が結合されることによって、新たな形式知が生み出されるプロセスです。一旦明示的に表現された知識は、他の形式知と組み合わせることが容易になります。例えば、製品開発プロセスでは、様々な機能部門の保有している形式知が、新たな製品を生み出すために結集されていくでしょう。その際、形式知の効果的な再利用を促すためには、それらの形式知をマニュアルやデータベースに整理しておくことが肝要です。このような知識変換モードは、連結化(combination)と呼ばれています。
 最後に第4の知識変換モードは、形式知が行動を伴う学習によって暗黙知として定着するプロセスです。例えば、われわれは教科書で習った知識を実際の行動に移してみること、learning by doingを通じて、その知識を深く理解し、新たな世界観を形成することができます。理科教育で行われる実験の意味は、自然に対する見方という暗黙知を形成することにあると言えるでしょう。このような知識変換モードは、内面化(internalization)と呼ばれています。
 野中理論は、以上に述べた共同化、表出化、連結化、内面化を通じて、はじめ一人の個人が持っていた暗黙知が組織的に増殖・拡大し、スパイラル・アップしていくプロセスを組織的知識創造のプロセスとして描き出します。そして、このような一連の知識創造プロセスを説明するために提唱されたモデルは、4つの知識変換モードの英語表記の頭文字をとってSECIモデルと呼ばれています。

【知識創造プロセスの事例】
 この理論は、日本企業が行った多くのイノベーションを対象とした事例研究を踏まえて生み出されたものです。
 例えば、「知識創造企業」というコンセプトが世界的に注目されるきっかけとなった1990年の論文では、あるメーカーが行った家庭用自動パン焼き器の開発プロセスが取り上げられています。そこでは、まず開発担当者が優れたパン職人頭の下でパン生地の練り方の秘訣を学習するという「共同化」が行われたと言います。また、開発担当者が、その秘訣をチームに持ち帰ってメンバーに伝えていった過程に「表出化」が見出されています。さらに開発チームでは、その知識を標準化し、マニュアルや計画書にまとめ、製品に組み込んでいきました。これは「連結化」のプロセスです。最後に、これら一連の経験を通じて開発担当者とチーム・メンバーが豊かな暗黙知を獲得するという「内面化」のプロセスが確認されています。

【モデルの説明力】
 このモデルがイノベーション・プロセスに対して強い説明力を持つことは、私自身、かつて様々な事例研究や、大規模質問票調査のデータを用いた統計分析によって確認しました。
 リスナーの皆さんも、身近な事例で結構ですから、新たな知識が生み出されたと思われる事例を取り上げて、そのプロセスが知識創造理論で説明できるかどうか、ひとつ考えてみてください。そのようなモデルのテストを自ら行うことによって、この理論はラジオから聞こえてきた情報に止まらず、皆さんにとっての知識になると思います。
 ただ、そのような事例を、無理に知識創造理論に当てはめてみる必要はありません。この理論が構築されてから、既に20年以上の歳月が経過しており、その間には日本企業の経営スタイルも大きく変化しています。このモデルの適用限界には、私たちが新しい経営理論を創造するための挑戦が潜んでいるのです。

分野: ナレッジマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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